③『そして彼らが得たものは』
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2014年12月25日0時
戦闘2日目第六台場上空
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眼下では、黒の魔術師が赤のスタッフを蹴散らしているのが見える。
「あれは、ユナイトさんとアヤさん、それと……あちゃ、レイズだな」
「一通り、攻撃するぜー」
「よしっ!」
我歩は操縦桿を右に倒し、フットバーを踏む。機体は右旋回し、黒の3人の上空にピタリとつけた。
おりべーは爆撃照準器に目を当てる。
「修、ちょい右、ちょいひだーり、ヨーソロー」
我歩はおりべーの指示に従って機体を操作。
おりべーは3人を照準器の真ん中に捉えた。
「ヨーソロー、ヨーイ、テッ」
腐食弾が投下され、レイズの仕掛けたゾンビの手に命中。それは腐食を進行させて朽ちて落ちる。続けてビラを撒く。
それは、ユウキの固有魔法『褪せない記憶』で日ごろ収集していたものだ。
そこには、ユウとアリシアが怪しいと書いてある。しかし、ひとまず下の3人には関係がない。逆にああ、やっぱりという納得感を与えただけだった。
もう一種類、ビラを投下。
ユナイトはそれを読み、悶絶して倒れた。
「ぐはあっ! ジュアンの正体は、実はユナイトって……黒歴史を……ばたっ」
「ユナイトさん撃破っ! アヤさんが手術の準備を始めた……」
「なんの手術だろー?」
「さ、さあ……」
その勢いのまま水偵は急降下。レイズに銃撃するがあちらも負けてはいない。近くに落ちている石や土をやたらにめったらに投げつけてくる。怒っているのか、両の拳を上げて何やら抗議している。
そして研究所に近づく。また水偵から銃撃。何度か繰り返すうち、レイズはいじけたのか、ウニのサンドイッチを食べ始めた。そして突如喉をかきむしり、苦しみだす。
「ウニサンド、棘入りだったのを忘れてた……ばたっ」
そこにまた、アヤがやってきて手術の準備を始める。
「レイズ撃破っ! またアヤさんが手術の準備を……」
「なんの手術だろー?」
「さ、さあ……」
そのころ、咎女とミカ、憩は四時間以上にも及ぶ戦闘で疲れ切っていた。
咎女は火玉を発生させ、ミカの正面に転移させた。
「きゃあああっ!」
「姉君様ぁっ!」
ミカは戦い冒頭で固有魔法を使い、魔力が尽きようとしている。
憩は、スピードを落としつつあるミカをかばいながら、第六台場から撤退しようともがく。
続いてダーツが飛んでくる。それを最後の白雪の小人が受け、消え去る。
しかし、それは咎女も同じである。
気力、意地、任務への忠実な心。
精神力だけで攻撃を続けていた。
咎女の前後左右には、憩のライフル銃が撃ち込まれる。
「くっ、まだ残弾はまだありそうね……ライフルがある限り、近づけない。もう少しなのにっ!」
手に持つダーツは一本きり。
咎女は、背後の気配にダーツを握りしめた。
「誰っ!」
光学迷彩を解除して姿を現したのは、リーリオである。
「リーリオくんっ!」
咎女の表情が、一気に明るくなった。
「咎女さん、探したよ。敵はあの二人かな……」
リーリオはリミット戦以来、魔力を使っていない。
咎女は一気に優位に立ったことを認識し、ダーツを握る手に力を入れた。
一方、ミカは息を荒くし、とうとう動きを停止する。
「憩、逃げなさい。さっき屋形船が止まってたわ。きっと黒が乗ってきた船。それを奪って脱出するのよ」
憩はしゃにむに首を振る。
「姉君様、できません。最後まで守り通しますぅぅぅ」
咎女が決着をつけるべく、木陰から出てきた。その横には光学迷彩のリーリオもいる。
ミカは覚悟を決めた。
「逃げられない。イチかバチか、固有魔法をやるわ。憩、発動したらライフルを乱射して逃げるのよ。我が愛の海に浮かぶ子よ、目覚めよ、目覚めよ。今こそ恨みの心を思い出して喰らえ……」
しかし、なにも起こらない。
咎女から、赤の魔粒子が放出されることはない。ミカは絶望感に覆われ、ガクリと膝をつく。
「まさか、わたしの固有魔法を……」
「そうよ。私が研究していたんですよ。完成したばかりでしたが、なかなか出来は良いでしょう?」
二人の間に憩が割って入る。
「ゆるしてくださぃぃぃ。降参しますからぁぁ(ふるふる)」
咎女は冷たく答えた。
「残念だけど、私には降参を受け入れる用意はありません」
「ひ、ひええええぇぇぇぇ」
リーリオは、あらかじめショートカットに登録しておいた「気体操作」を発動、空気の箱を出現させる。その箱から酸素を抜いて相手を酸欠に陥れるつもりである。
そのとき、シウが一歩、また一歩とゆっくりした足取りで近づいてきた。
「咎女ちゃん、リーリオくん、もうそこまでだ」
「シウさん」
「ベルアートさん……」
「もちろん、トドメをさすつもりなんてありません。なぜなら、新たな敵が現れたのですから……」
「それは、僕のことなのかい? 咎女ちゃん……」
「こればかりは利害が一致しないでしょう? やはり、人としては大切に思っていても、魔術師としては行動がうまくかみ合いません。相対したのなら全力であたるのが……」
シウが咎女の言葉を受け取り、続ける。
「僕らの運命……か。わかっているよ。行動はかみ合わなくても、気持ちは同じさ」
「咎女さん、加勢は、必要ないですよね」
リーリオの言葉に咎女はうなづき、
「リーリオくんは、白の二人を。また戦闘に加わらないように、ね?」
と言った。リーリオは承知して、ミカと憩の手を握ると、第六台場からインクの本部に転移した。
咎女は一瞬、安心したような表情を浮かべたが、瞳には厳しい光が宿ったままだ。
「ベルアートさん、いきますよ」
やむなく身構えるシウに、咎女が言った。
「やっと、やる気になったようですね」
咎女は火球を投げ、氷盾を実体化させて突っ込んでくる。
シウは火球をよけて、氷盾をかいくぐると咎女の腕をつかんで投げをうつ。咎女は身体を一回転して着地し、距離をとった。
「咎女ちゃんの戦術はよく知っているつもりだ」
「そうですか、私もベルアートさんの戦術はすべて知っていますよ。そろそろ血威の出番ですね」
シウは、眼鏡を投げ捨てた。
咎女は意外だ、という表情をしている。
「なんのつもりですか?」
シウはそれに答えす、詠唱。
「血の代償によって発動する魔法……それが僕の血威っっ!!」
「詠唱ですって!?」
黒の魔粒子が月を覆わんばかりに天高く伸びた。
「僕は、咎女ちゃん相手なら本気で戦える。なぜなら、咎女ちゃんを心の底から信頼してるからだっ! 君は僕の戦術を知っている。だから、本気の詠唱で固有魔法を発動しても、君は絶対にやられはしないっ! 咎女ちゃんだってそうだろう!!」
咎女が答えた。
「そうですよ。血威を研究しなかったのは、ベルアートさんの本気の攻撃を受ける自信があったからっ! そして、あなたもわたしの攻撃をっ! 今こそ、なれ合いも手加減も無い関係になりましょう! そして、交わしましょう!」
二人は同時に言った。
「「本当の魔術師同士の愛をっっっ!!」」
瞬間、咎女は火球を実体化してシウの背後に転移。振り向いたシウの胸に飛び込むと、ダイレクトに炸裂させる。その瞬間、シウの血威の魔粒子が天から降下して、二人を包んだ。
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2014年12月25日1時
戦闘2日目第六台場研究施設・第二控室
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「あと11分……」
研究室の3人は手負い、もしくは魔力を消耗している。
今や全てのトライブで、消耗のない魔術師はユウキだけだ。
あえて言うならば、ビラを作る手伝いをしただけである。しかし、そのビラのおかげで黒の新手を足止めできたのだが、ユウキは知る由もない。
モニターには、アリシアとユウが映っていた。ララはキッチンで剣術屋の治療中である。
「2対1……輝乃さんいないな。じゃ用意しておいた柏餅自分で食べよう……」
そうつぶやくとこしあんの柏餅を口に放り込み、光学迷彩に身を包んで、また武器であるなぎなたの先端だけ光学迷彩をほどこした。遠近感を狂わせるためである。
「いくぜっ、魔縮炸襲っ!」
炸裂の威力が弱っているが、扉を開けることはできた。その様子を見てアリシアはおそらくこれが最後の魔縮炸襲かと思っていた。
ここはほかの部屋と様相を異にしていた。扉をくぐると、そこは肉の加工業で使うような、業務用の大きな冷凍庫である。
「ん?」
アリシアは、ちょうど人の形に霜がついていない部分を見つけ、ユウに目で合図した。なぎなたを持っている。
「あの体格と、武器から想像するに、ユウキじゃないか?」
「なぜそれをっ!」
ユウキは立ち上がり、アリシアが構えたパイソンに質量操作。アリシアの狙いが狂うところ、なぎなたの先でパイソンを叩き落した。
その隙にユウはなぎなたの刃をよけて棒の部分を小脇にかかえ、そのままユウキの体当たり。そして二人で上に下に取っ組み合い、体格で有利なユウが体固めで押さえつけた。
その間にアリシアが次の冷凍庫の扉を開ける。
しかし、ユウキは研究室前の廊下に転移して先回り。ユウはそれを追ってアリシアの後ろから扉をくぐる。
ユウキが突っ込んでくる。パイソンを失ったアリシアは、ララから預かったフローラをかかげ、大鎌を実体化。ユウキのなぎなたを受け止める。
「アリシア、頼んだっ!」
「任せなサイっ!」
ユウは研究室の扉に走る。ユウキが引き返そうとするところ、アリシアは大鎌の背でユウキを廊下の壁に押し付けて動きを封じた。
ユウは研究室の扉の前で、最後のチカラを振り絞る。
「魔縮っ……炸襲ううっ!!」
ユウの手甲が銀色の光を放ち始めた。しかし。
ロウソクを吹き消すように、フッと、消える。
「どうしたんだっ! ちくしょっっっ……」
ユウキが、その様子をじっと見ながら、ボソッと言った。
「僕たちの、作戦、勝ち……」
「まさか、俺の魔縮炸襲をっ?」
「そう、研究していたのは、僕……寒い冷凍庫で待っていた甲斐があった……もう、その扉は開かない」
つまり、インクは完全に読み切っていたのだ。
個々の戦闘に破れ、キッチンを突破されるまでは、あゆみの作戦の想定内である。
だからこそ、ユウキを温存していた。戦闘で勝たなくてもいい。敵が魔力を使い果たし、扉が開かなければ、それでよいのだ。
「うおおおおっ!」
ユウが雄たけびを上げて突っ込んでくる。
「ヤケ、ですね……」
アリシアの大鎌を受けている、なぎなたは構えられない。ユウキは攻撃に身をさらすつもりだった。どうせ、勝ちなのだから。あと1分、この2人をこの場にくぎ付けにしておけば、それでいい。
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2014年12月25日1時10分
戦闘2日目第六台場研究施設・研究室前、廊下
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「うおおおおっ!」
ユウはアリシアの視線を受けていた。言わんとすることはわかる。
ユウは、ほくそ笑むユウキの胴体にしがみつくと、もてる全力をもってしっかり抱えた。
「ユウさんっ! なにしてるんですかっ!」
その体制のまま、ユウとアリシアは2人がかりで軽量のユウキを引きずって扉の前に移動。
「うわうわうわわわわわわっ」
密着しすぎてユウキはユウになぎなたを振り下ろせない。
扉の前でアリシアは叫ぶ。
「分断っ!」
大鎌は青い炎をまとわりつけ、扉を一刀両断。
扉の向こうでは、怯えた表情のあゆみ、はきの前にイデアが仁王立ちで二丁拳銃を構えていた。
アリシアは牽制しようとサウザンドアームズを発動。しかし、何事もおこらない。
「ここでデスカっ!」
はきがニヤリと笑う。
あゆみが叫んだ。
「あと5秒ですよ! みんな、転移の準備をしてえっ!」
踏み出すアリシアの足元にイデアは銃撃。
「こーなったら、テッテー的に破壊するだけでスっ!」
そして大鎌を振り上げ、
「ララっ、おねえちゃんにチカラをおっ! 分断っ!!」
びゅん、と振り下ろす音とともに、背後のサーバが真っ二つ。しかしディスプレイのカウントダウンは止まらない。
「モーひと息デスっ! ぶーんだぁぁあんっ!」
「2、1、ゼロっ! 全員撤退っ! 転移っ!」
一瞬にして赤の魔術師たちが姿を消した。
アリシアが大鎌を振り下ろした瞬間、電源が切れる。
「うにゃー!!!! にっ、逃げられましたアアアっ!」
ユウキを取り逃がしたユウが、研究室に入り、壁を指さして言った。
「なんか、あちこちでカウントダウンしてないか?」
「ソー言えば……」
サーバー破壊用の時限爆弾である。
「逃げるデスっ!」
二人は全速力で駆け出す。途中、剣術屋とララを収容。地上に出ると、身を伏せた。ユウはアリシアをかばってその上に覆いかぶさる。
腹を突き上げる衝撃音がとどろいた。
ユウは伏せたまま振り向くと、地下施設から火花が飛び散っている。
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「征君、すまなかったであるな」
「いえ、一人で侵入しても、あの防備です。どうなっていたか……」
「どっ、どうなったトリ……」
「もう、いいのである」
目覚めたゲシュペンストを、リミットはしっかり抱きしめた。
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咎女とシウは、二人であおむけに倒れながら、夜空を見上げていた。
「咎女ちゃん、起きれるかい?」
「ダメですね。でもベルアートさんにあんな奥の手があったなんて」
「咎女ちゃんこそ。近接格闘術は僕以上じゃないかな?」
「ベルアートさん、私たち、お互い知り尽くしていると思っていましたが、まだまだ知らなければならないことがあるようです」
「そうだね……」
そう言うと、シウは夜空を指さした。その先を、咎女は見つめる。
「オリオン座、ふたご座、おうしにやまねこ……星座になっている星は、見える範囲のほんの一部でしかない。僕たちはそんな状態なんだ。心深くに、星座になっていない星をたくさん持っている。僕は、咎女ちゃんの心の星一つ一つを……」
シウは星空から瞳を外し、咎めに向ける。一呼吸おいて、
「知りたい」
といった。
咎女はその視線に答えて、シウの手を優しく、握った。
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おりべーは携帯電話を切った。
「修、作戦成功……ではないけど、データ転送は終了したそうだぜー」
「そうか、最低限ことはできた、って感じだな。じゃ、そろそろ……」
おりべーは我歩の肩に手をおき、言った。もう冷たくはない。じんと、温かみが染みる。
「メリークリスマス」
「ああ、そうだな。メリークリスマス」
「まだ飛んでようぜ~」
「ああ、大空の散歩といこう」
おりべーは言う。
「来年のクリスマスは、地上で迎えたいなー」
「ああ、まったくその通りだぜ。再来年もな」
「そのまた次もー」
「じゃあ、そのまた次もだぜ」
「むむ? そのまた次~」
「いやいや、そのまた次っ」
「負けないぞー。そのまた次……」
二人の幸せそうな笑顔に遠慮してか、三日月はその姿を、フッと隠していた。
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ユナイトは納得いかないような顔だ。
「爆破するとは、どういうことなんでしょうねぇ。今からデータの断片が拾えないか行ってみるのもテで……いや、やめましょう。あの様子じゃ、火だるまになってまるコゲですね……」
レイズもまた、腕組みして浮かない表情である。
「宴会が敗因なのだっ!」
アヤはなぜか穏やかで、何かをやり遂げた充実感に満ちていた。
「レイズ君、君のおかげで第六台場にこれた。そして、君や、ユナイト君を私は治療できた。そう、ニナが愛した君たちを、ね。それにしても君は不思議だね。いつも勝手気ままに行動しながら、なぜか魔術師同士をつなげている。まあ、今回私もその恩恵にあずかったワケだが」
レイズが答える。
「ナニ異端教会みたいなコト言ってるんだ?」
「少し違うよ君。異端教会は意識的にそれをしている。君は、そうじゃないだろう?」
レイズは首をかしげた。
「ハハハっ! それでいいんだよ君。君は変わらんほうがいい。ともかく、第六台場に上陸できて良かった。礼を言わせてもらうよ」
「べべべっつにボクは……」
「ユナイトくん、君と私の毒薬のダブル攻撃、なんて耐えられる魔術師がいると思うかい?」
ユナイトはまさか、というように両手を広げた。
「ありえませんね」
「そうかい。いつか君と共闘したいものだ……」
「そうですね。強い敵がワンサカいますからね。退屈しませんよ」
「たのむよ、君」
そう言って、アヤはレインボーブリッジのイルミネーションに視線を投げた。
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二人は第六台場の砲台跡に腰かけていた。爆発のススで顔が少し汚れている。
ユウはハンカチでアリシアの顔を拭いた。
「アリシア、メリークリスマス」
「……メリークリスマスデス」
そこへ、レイズがやってきて、おりべーが撒いたビラを渡し、すぐに立ち去る。
アリシアはそれを読んで赤面。
「うわぁぁぁぁぁぁ……ナンですかこれはっ!」
ユウがのぞき込むと、そこには、
「何々……『ユウとアリシアは怪しい』? うわ、『ユウはアリシアのベッドルームに侵入!』……」
「怪しいだナンテ、エライ迷惑デスネ……」
ユウはぐっとつばを飲み込み、言った。
「おっ俺は、迷惑なんかじゃないぜ」
「えっ?」
「だから、俺はそれでいいっ。いや、そうでありたい、ぜ。」
アリシアは照れ隠しにハンカチを出す。
「あああさっき、拭いてもらいましたからネ。ワタシも拭きマス」
ユウの頬に、すこしぎこちなくハンカチをあてた。
「俺、白の魔術師に告白されたことがあって」
「知ってマス……それから、どうしたんデス?」
「好きってなんなんだ? と考えてさ、今更だけど、わかった」
ユウはキッと、アリシアに表情を向ける
「白の魔術師、好きだ。でも俺は今日みたいに、彼女がいなくても戦える。しかしよっ、アリシアが、アリシアがいないとさっ! 戦えないんだっ! これってナンだって思う。アリシアと一緒に戦うと、命が惜しくなる……これ、愛って、ヤツだ」
アリシアは答えた。
「ユウ、傷つくのが、コワイですカ?」
ユウの心に少しの影がさす。
「ああ。でも、いいぜ。アリシアにフられるのなら、本望だ」
「フられるのは、男の仕事ですヨ?」
「ああ、わかってる。どんとこい……いや、少しは手加減してくれよな……」
ユウは瞳を閉じる。
アリシアはユウの顔にそっと、自分の頬を寄せて、ぴたりと触れ合った。
「フフ、合格デスけど、今はここまで。白の魔術師にフられて来なさイ……」
「アリシアっ!」
ユウは自分の胸にアリシアを、しっかりとかき抱いた。
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物陰では、ララとレイズがその様子を見て、ほっと胸をなでおろしている。
「安心したの。おにいちゃんが変な対応したらユーレイ道教えてあげるつもりだったけど」
レイズも言った。
「ホント手のかかる。ボクはもう二度とゴメンだな」
そう言って、アヤの待つ屋形船に乗り込んだ。
「ララー! どこデスカぁー!」
(あっ、わたしも行かなきゃ)
「おねえちゃん、おにいちゃん! 探したのー!」
ララは、満面の笑みをたたえながら、アリシアの胸に飛び込んでいった。
(おわり)
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