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①『聖夜に戦端は開かれて』

……57秒、58秒、59秒。
 
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 2014年12月25日0時
 戦闘2日目第六台場上空
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 気温は氷点下にまで下がったが、その影響で空気は澄みきって、弓を張ったような細い月が優しい明かりを落し、機上の人となったおりべーと我歩を出迎えた。
 二人の間に、“メリークリスマス”の言葉は無い。
 二人を見送る仲間の魔術師はもう、前日の戦闘で消耗し、数えるほどに減っている。
 離水前、仲間の魔術師は、我歩とおりべーの手をしっかり握って、言った。
 
「なんとか、固有魔法防御も完成しました」
「やった! どのくらい!?」
「3つです」
「結局、たった3種類かよ……」
 
 我歩も、おりべーも絶句する。
 我歩が、吐き出すように言った。
 
「2日目になれば、有利になると思ったのにっ!」
 
 仲間の魔術師たちはうなだれ、目を瞑る。
 
「だから、頼みます。我歩さん、おりべーさん……」
 
 高度を上げるにつれ、だんだんと小さくなる仲間は、いつまでも空を見上げている。そのわずかに潤んだ瞳は月明かりを反射して、悲壮な輝きを放っていた。

 

(もういい、はやく施設内に隠れろよ。もう、いいから……)

 

 我歩はそう呟きながら、研究施設に入れと仕草で示した。それでも名残惜しそうに赤の魔術師は手を振っている。

 

(見つかるぞ、ほら、行けってば、行けよ。たのむから……)
 
 零式小型水偵の操縦桿を握る我歩は、気体操作で発動機の振動を抑え、また光学迷彩でその機体を見えにくくしている。だから自分の仕草が魔術師に伝わらないのは、我歩もわかっていた。だが、思わずそうしてしまう。
 
 
* * * * * * * * * *
 
 施設を放棄しようと、リーリオと提案もした。
 駆馬は言う。
 
 「研究データをどうやって保全するつもりなのさ?」
 
 目的とする固有魔法防御の研究は、魔粒子の解析だけにとどまらない。魔術師のパーソナリティと脳内でおこる計算、魔術師が覚醒する以前の生活環境、トライブに所属してからの訓練方法、使用実績……などなど、一人の固有魔法を解析するだけで膨大なデータが必要だ。しかも複数となると、とても個人のパソコンやPDAに保存することは不可能だったので、第六台場には大規模なサーバ設備がある。他の設備に分散させれば、狙われる施設が多くなり、それだけリスクが増加する。よって第六台場に一極集中させていたのだ。この研究に組織の生き残りを賭けるウィザーズ・インクの意気込みが知れる。
 だからこそ、臨時とはいえトライブの幹部である駆馬は、容易に研究結果を敵に渡すことはできなかった。
 リーリオが答える。
 
「データを他の拠点に転送して、第六台場のパソコンやサーバを破壊すれば……」
「それならいいよ」
 
 駆馬はあっさりと承知したが、それは困難な状況に陥りつつある。
 そして、赤の魔術師たちは『死守命令』を受けたのだった……
 
 * * * * * * * * * *
 
 水偵の後席では、おりべーが不安そうな面持ちでクリスマスイルミネーションに飾られた街を見ていた。
 ふわりと浮遊しているような水偵からは眼下のイルミネーションが透けて見え、座席は色とりどりの珠飾りが吊るされた、ゆりかごのようだ。
 
「修、綺麗だな~」
 
 レインボーブリッジの橋梁は虹色に照らされ、ぽつぽつとシグナルのように点滅する青い光は、季節外れの蛍のよう。それが暗い海面に映し出されて揺らめくさまは、その波間で魔術師たちが必死の攻防戦を繰り広げているとは、とても思えない。
 おりべーの言葉に、我歩は水面を見る。
 
「ああ、見送ってくれた仲間の、瞳みたいに揺らめいているな」
 
 その揺らめきは、おりべーの美しい黒い瞳の中にもあったが、我歩はそれを言わなかった。
 おりべーは出撃の光景を思い出し、
 
「なんでだろう、今日は少し、こわいなー」
 
 と言って、右手を操縦席の我歩の肩に乗せる。
 我歩は、少し冷たいその手を優しく握りながら頬をあて、そのままじっと、ぬくもりがおりべーに移るのを、待った。
 
 
 
 
 
 
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 ……5時間前
 2014年12月24日19時
 シュバルツ・イェーガー練馬拠点
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 ララは一人、テーブルクロスに残された、エスプレッソのシミをじっと見つめていた。
 そのシミは、『第六台場にインクの拠点発見』、続いて『目的は固有魔法防御』との連絡を聞いてアリシアが慌ててこぼしたものだ。また、明日には研究の一部が完成するらしい、という情報もある。
 ララの脳裏には、アリシアの言葉が何度も思い起こされ、行き来し、渦巻いていた……
 
「ん~固有魔法封じトカ、ズイブンな手に出ますネェ……対魔術師戦だし、ここはララちゃんの授業の成果をバッチリ見せる所ネ」
「魔術師と……」
 
 敵はインクの魔術師である。思わずララは俯き、呟いた。
 
「クッキーのおねえちゃんや、潜航艇のおねえちゃん、トールおにいちゃんもいるかも……」
 
 アリシアには、ララの気持ちが痛いほどわかる。
 
「ララ、施設を壊せばいいだけデスヨ」
「魔術師が邪魔してきたら、どうしよう……」
 
 アリシアは少し考えた後、『サウザンドアームズ』のマスコットである黒猫を出した。
 
「ミーティアが敵を牽制、誘引して、赤の魔術師にはヨソへ行ってもらいますヨ。それにホラ、使うのはゴム弾デス」
 
 ニッコリしてウインクすると、ララの表情もいくぶん和らいだ。
 
「わたし、がんばる……」
 
 そう答え、出発の準備を始めたが、なかなか捗らない。
 その様子を見て、アリシアは優しく声をかける。
 
「おねえちゃん、先に行きますからネ。ララ、踏み出す時は自分で決めるんデスヨ」
 
 そしてパタリとドアを閉めた。
 ララはまだ、エスプレッソのシミを見つめている。そして細い指でシミを撫でた。
 そうしたからと言って、アリシアに伝わる言葉は無い。
 
「おねえちゃん……」
 
 ぼそっ、とつぶやいてみる。そしてパタリとテーブルに顔を伏せた。
 
「こゆう、まほう、防御……」
 
 もし万が一、サウザンドアームズが防御されたらどうなるんだろう、と考えた。
 (……牽制して、ヨソに行ってもらいますヨ……)
 
「おねえちゃん、サウザンドアームズが防御されたりしたら、ミーティアちゃん、でないよ?
 そうなったらどうするの? バギーやモーターボートがでないと、万が一のとき、逃げられないよ……
 おねえちゃん、ゴム弾だけで、どうするの? ……ねぇ、こたえて……」
 
 シミは何も答えない。
 アリシアがゴム弾で戦うと決めたのは、ララの気持ちを想ったからである。
 姉がゴム弾を武器に苦戦する様子が目に浮かぶ。いや、苦戦するだけならまだいい……
 その時、ララのいたたまれない後ろ向きな気持ちが、そのままグルリと前を向いた。
 
 ララは弾かれたように立ち上がり、フローラを引っ掴むとダン! と勢いよく窓を開け、本当に守りたい、たった一人の魔術師の元へと、飛び立って行った。
 
 
 
 
 
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 同時刻第六台場
 ウィザーズ・インク研究所内
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 あゆみは施設の点検に余念がない。
 いまだかつてどのトライブもしたことの無い、重要な研究である。
 建設段階において設計・施工会社とも綿密にコミュニケーションをとり、外部からの侵入者に対する対策を万全にしてある。
 まず、前室から第二控室に至るまで全ての扉を、銀行金庫室式の強固な複合金属扉とし、開扉から2秒後に油圧式自動閉鎖機構により強制閉鎖するようにした。それは入った側の扉が閉まらないと、次の部屋への扉が開かない仕組みになっている。
 また各廊下には警備ロボットと自動射撃銃を設置。IDカードを持っていない魔術師を攻撃するべく待ち受けている。
 
「扉以外の場所に穴を開けたら、海水が流れ込む仕掛けにしたかったんだけどなぁ~。
 でも逃げ遅れた味方が中にいたら、溺れて脱出できなくなっちゃうわよね。うふっ」
 
 チロと舌を出して自分の頭をコツン。
 
 
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 一方、神楽坂土御門こと“はき”は、城外にいた。
 
「さて、消える魔球にちなんで作った落とし穴の中に、催涙ガス追加っと。
 それとトラップと言えばコレが定番ですよね。金タライが頭にバン、と落ちてくるの。
 粉塵爆発狙いの小麦粉も大量に用意しましょう。まあ、足止めにはなるでしょう。
 それと敵が来るとしたら海からですよね。うーむ。
 そうだ、濡れてくることを想定して、巨大扇風機を入り口に設置しましょう。
 冬の濡れ姿に扇風機。クククっ……風邪引いちゃいますかね」
 
 チロと舌を出して自分の頭をコツン。
 
 
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 そのころ、十一は慌てず騒がず、俺流の罠を用意していた。
 
「取り出したるは魔法香水。黒の魔粒子も白の魔粒子も精細さが足りないんですよねぇ。やっぱり私の香水と合うのは、理知的な赤です」
 
 そう言って香水のボトルを取り出し、ダンディーな仕草でサッサッと所内いたるところに振り撒いた。
 
「赤のメンバーには若々しく穢れ知らぬ、ピュアホワイトな香りをどうぞ。しかしぃい~」
 
 少し悪い表情になる。
 
「赤以外の魔粒子を持つ者は、状態異常で苦しむことになります。どんな状態異常かって? それは、一人一人の体臭が違うように、魔粒子の質も個人ごとに違いますからね。よって発生する状態異常は魔術師によりそれぞれですから、実際のところはですねぇ、よくわからんのですわ」
 
 チロと舌を出して自分の頭をコツン。
 
 
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 遠野結唯こと、イデアは研究室内のキッチンにいた。
 得意の二丁拳銃を抜いたり、ホルスターにしまったりと、いつ発生するともしれぬ戦闘に備え、訓練に余念がない。
 
「きゃっ」
 
 そこへあゆみとはきが入ってきた。突然銃口を向けられたので少々驚いている。
 
「す、すまん、施設内は狭いからライフルではなく、拳銃の早撃ちの練習をしていたのだ」
「ううん大丈夫。少しびっくりしただけだから」
 
 申し訳なさそうに俯いたイデアに、はきが言った。
 
「まあ、もし敵が来てもここまで到達するのはかなり困難でしょう。銃の訓練もいいですが、ゆっくり食事でもしませんか? トラップのチェックが終了したので、僕が腕によりをかけて作ります」
「そうか、頼む、神楽坂」
「かぐ……はきでいいですよ」
「はき? ……」
「そうです。はきで結構」
「では料理を頼む……は、き……」
 
 あゆみが反応する。
 
「イデアさん、カワイイわぁ~」
「なっ何を言うのだっ!」
「そのギャップよギャップ。ねえ、はきさん」
「いやまさしく。いま“きゅん”という効果音が聞こえました」
「私には何も聞こえんっ!」
「イデアさん、ちょっとサングラス外してみて」
「だめだだめだっ! これは私のトレードマークなのだっ!」
「メイクできるよぉ?」
「いや私はそういうキャラではないっ」
「そう……残念」
 
 はきも言った。
 
「キレイだと思うんですがねぇ~そのサングラスの奥に光る青く色っぽい瞳。メイクしたら一段と引きたちますよ」
「いやいや、私は裏社会で育った孤独を愛する魔術師なのだ。メイクはイメージが違い過ぎるっ」
「裏社会で育ったんですか?」
 
 はきが、さも意外そうに言った。あゆみも目を丸くしている。
 
「そ、そうだ。魔術師の世界では別に珍しいことではなかろう」
 
 あゆみがそうじゃない、というように手を振りながら言う。
 
「ううん、違うの。イデアさんの過去って、今初めて聞いたから……」
 
 イデアはハッ、とした様子で口を押えた。
 
「ま、まあ、あまり他人に言った事が無いからな……」
「ふぅーん、他人に語らない過去をわたしたちにねぇ~うふふっ」
 
 イデアが上目使いに二人を見ると、ニッコニコして見つめている。
 
「なっなんだっ! そ、そんな迷子の子犬を見るような目で私を見るなぁ! 私はなぁ、裏社会で育って無口でっ……」
 
 言い終わらぬうちにはきが言う。
 
「わかってますよ。孤独を愛するんですよねぇ」
「最後まで聞かんかぁ!」
「今日はカレーですよ」
「いやそうじゃなくてだな、私は裏社会で」
「じゃあなぜキッチンに?」
「フッ、よくぞ聞いてくれた、はきよ。それにはちゃんとした理由があるぞ。よいか、ぶつかり合うことだけが戦いでは無い。補給戦こそが戦闘のカナメなのだ。だからその根幹たるキッチンを守るべく、私はここに……」
 
 すでにあゆみとはきはイデアに背を向け、食材を包丁で切り始めている。
 トントントントン……
 
「だから最後まで人の話を……まあいいか。腹が減っては戦が出来ぬとも言うからな」
 
 あゆみははきに言った。
 
「はきさん、ほら……忘れてない?」
「ああ、そうでしたそうでした」
 
 そう言うと、はきは頑丈な扉についているセキュリティ用のディスプレイを操作した。
 ガチャリ、と施錠される音が大きく響く。イデアが不思議そうに聞いた。
 
「はき、なんで今施錠したのだ?」
 
 トントントントン……
 はきは無言でカレーの食材を切り始める。
 
「おっ、おい……」
 
 はきのかわりに、あゆみが言った。
 
「そういえばイデアさんって、異端教会にいたでしょ?」
 
 トントントントン……
 
「んっ? あ、ああ。しかし、今はこの施設を守るために全力で……」
「わかってるわよぉ。やだなあ、疑ったりなんてしてないよ?」
 
 トントントントン……
 
「そ、そうか? それならいいのだが」
「ただね、もし襲ってくるとしたらよ、白だと思うの。なぜって、ここは元々白の占領区だから」
「ああ、私もそれは想定していたところだ。手加減はしないつもりだ」
 
 トン・・トン・・トン・・トン……
 心なしか、食材を切るスピードが落ちて、その代りに妙な力が入っているかのように、音が変化した。
 
「フフッ、それなら話が早いわね」
 
 トン・・トン・・・トン・・・・、ダンっ! 
 
「緒方、なぜキャベツを? カレーの具にキャベツって、あったか?」
 
 同時に振り向いたあゆみとはきの、瞳だけ、笑っていない。二人とも片手に包丁を握り締めている。料理中なので当然ではある。
 あゆみが声のトーンを落とす。
 
「お野菜も取らなきゃ……ダメでしょおぉぉお?」
「そっ、その通りだが……いえ、おっしゃる通りです……」
 
 あゆみが言った。
 
「いつ襲ってくるとか、知らないかなぁあああ?」
「そんな事、しっ知るもんか……いや存じ上げません。ホントに」
 
 あゆみとはきは、今までの表情が嘘のように、ニッコリと微笑んだ。
 
「ならいいのよっ。さあ、はきさんタマネギ炒めて」
「はいはいっ、甘味を出すには欠かせませんよね」
 
 和やかで温かい料理風景が戻った。ふと、あゆみが手を止める。
 
「イデアさん」
「は、ハイっ!」
「緒方、じゃなくて、あゆみちゃん」
「あ、あ、あゆみちゃん……」
「嬉しいわぁ、もう少し待ってね。たっくさん作るから」
 
 あゆみはテキパキと料理に専念している。
 裏社会で育ったイデアではあるが、ここが本当の裏社会だと実感せずにはいられなかった。
 
 
 
 
 
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 2014年12月24日20時
 戦闘1日目第六台場沖
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「では、ここで。憩ちゃん、ミカさんを頼むである」
 
 リミットはゲシュペンストとともに、第六台場にある狭い砂浜でボートを降りると言った。
 
「姉君様のことは、私におまかせくださいぃぃ……」
 
 ふるふると震えながら話す玉響憩であるが、ミカのことになるとチカラを発揮することを、リミットは知っている。頼もしそうに、つやのある憩の髪を撫でる。
 
「ぐわんばりますぅっ(ふるふる)」
 
 憩は小さな手で拳をつくり、胸の前でぐっ、と握った。
 憩の姉貴分であるミカは、先の戦いで大量の落とし児を吸収して腹部が大きくなり、魔力のチカラを借りなければ歩くのも難しい状態だ。そんなミカに危険が及ばないよう、憩に頼んでいたのだった。
 ふと、リミットはレインボーブリッジ展望台を見上げる。
 
 そこには、田中征がハンググライダーに自分の身体をベルトで結びつけ、今にも飛び立とうかという態勢でスタンバイしていた。征はリミットの視線を受けると中指と人差し指を揃え、軽やかに敬礼して準備が整ったことを知らせる。
 リミットは微笑み、小さく頷いた。
 ミカはボートの上からリミットに言った。
 
「あとは、わたしたちね。配置についたら、合図するわ。そうしたら……」
「了解である。異端教会の勢力が弱まったといえ、我々の占領地域内に研究施設を建設するとは大胆極まりないのである。目にモノ見せてギャフンと言わせるである」
 
 リミットの不敵な笑みを確認すると、ミカはボートを離岸させその反対側へと向かう。
 征は上からその様子を見ると呟いた。
 
「もうすぐ、お祭りの始まりですね。少数精鋭部隊を立体的かつ、多角的に戦闘配置しての奇襲……。持ちこたえることができますかね? まあ、勝っても負けてもウィザーズ・インクには手土産を持って行きましょう」
 
 既に勝利を確信しているのか、不敵な笑みさえ浮かべている。
 しかしその視線は、ミカと憩が戦闘配置に着くまで油断無く、赤の魔術師に動きが無いか確認していた。
 折しも、300m先の第三台場ではクリスマスイブを飾る花火が打ち上げられた。その連続する七色の明かりに、ミカの頬が艶めかしく照らされる。
 
「姉君様、事前に調べた通りですぅぅ(ふるふる)」
「憩、ありがと。花火で合図の音がかき消されて、敵にさとられることは無いわ」
「お褒め預かり光栄ですぅ」
「さて」
 
 ミカは照明弾を取り出すと上空に向け、トリガーに指をかけた。
 花火が上がる。
 
「クリスマスパーティの始まりよ。特別盛大なね」
「ですぅ!」
 
 ミカがトリガーを引くと、照明弾はスルスルと、祝砲のような明るい響きを残して上空に伸びてゆく。そのまばゆい明かりに細い弓張月は一瞬、掻き消える。
 
「合図であるな」
 
 リミットは冷たい笑みを浮かべ、手元のボタンを静かに押した。
 腹の底から突き上げる轟音、建造物の破片が飛び散る。黒煙を噴く第六台場。と同時に征は展望台の手すりを蹴って大空に舞う。リミットは愛用のライフルを背に、手にはバズーカ砲を持って石垣を軽々と乗り越える。憩はミカの手を引いて上陸すると弩を握り締めて物陰から研究所の入り口を狙って構える。ミカは固有魔法、『魔を喰らう胎児』を発動すべく詠唱する。
 
「我が愛の海に浮かぶ子よ、目覚めよ、目覚めよ。今こそ恨みの心を思い出して喰らえ、全てを食らい尽して憎しみを癒せっ!」
 
 第六台場内の赤の魔粒子が天高く登る。その背後には花火が煌めく。魔粒子は降下し、ミカの腹部に吸い込まれて消えてゆく。
 早くも征は着陸態勢。まるで戦闘のない、無人の野を歩くがごとくスムーズに着地する。着地地点も征の狙い通り。地下施設の入り口ジャストである。
 
「パーフェクトっ! これが完璧な攻撃、というものです。それにしても空を飛ぶのって結構気持ちイイなあ」
 
 余裕の表情で軽口を言う。全員無傷で、慌てるそぶりも無く、また汗ひとつかかずにインクの施設に大きなダメージを与えていた。
 第一撃はこれ以上ないほど完璧に決まった。戦闘開始たった数分後の出来事である。
 
「さあ、中におっと……こんなところに落とし穴がありますね。気を付けましょう」
 
 リミットが走り寄る。
 
「どうであるか?」
「リミットさん、爆破完璧ですっ! ご覧の通り中は真っ暗。見事インフラを潰しましたね。でも中に入らずどうやって?」
「ほんの小細工であるよ。主電源の破壊は中に入る必要は無いのである。
 東電の変電所は晴海の地下。意外と近いのである。
 そこから電源を引くとすれば海底ケーブル。して、地図上で晴海からここまでラインを引けば……
 大きな島なら解らなかったであるが、周囲数百メートルの小島。
 引き込み線を発見するのに、そう時間はかからなかったであるよ。
 それに、天王洲側へ伸びていた予備線もプッチン、である。
 ただ、内部はセキュリティが厳しく、入れなかったのが残念である」
 
 当然、という仕草のリミット。征は感心しきり、というように頷きながら、言った。
 
「では、赤の使える電子機器は、バッテリー内臓のノーパソやケータイ、PDA端末だけ……」
「で、あるな。もう一つ、自家発電設備……そこまでは手が届かなかったのである」
 
 そこに、ミカと憩も追いついて来る。
 
「どうでしょうかあ……(ふるふる)」
「上手くいったみたいじゃないさ。インクお得意の電子戦封じ」
 
 憩は涙目だ。
 
「ふるふるふるふる……こっ、こんな完璧な勝利、初めてですぅ(ふるふる)」
 
 ミカが憩の髪を撫でながら、優しく言った。
 
「憩。勝利目前ではあるけれど、データまで完全に破壊、もしくは入手しないと勝利とは言えないわ。いい? ここで気を抜いちゃだめ。わたしのそばにいるのよ?」
「はぁい。姉君様のお側にいますぅ」
 
 リミットはミカのお腹を見て満足そうだ。
 
「ミカさんも、そのお腹の様子だと赤の魔粒子はたっぷりと」
「モチ屋のもちよ。ちょっと歩きにくくなったけどね。施設内にいる魔術師のチカラは2、3割くらい漸減出来たはず」
「“施設内”ですって?」
 
 声に、四人は真っ暗で細い地下施設内の入り口を凝視した。
 憩がライフルを構える。
 三日月に照らされて女のシルエットが浮かぶ。そして、一歩、また一歩……。
 
「ああ赤の魔術師ですねぇぇぇ。こっ、降参を受け入れる用意がありますですぅぅ(ふるふる)」
 
 憩が震え声で降伏を勧める。ミカが怒鳴った。
 
「憩っ! 伏せるのよぉっ!」
 
 シュッ、と稲妻のように鋭くダーツが飛んできて、憩の髪をかすめて背後に飛び抜ける。
 
「憩ちゃん、後ろであるっ!」
 
 ピュー、と鷹型のアニマロイドが襲い来る。反射的に憩は発砲。弾は右の翼を貫いて海上に落下した。地域特有の魔粒子効果により、創造武器の命中率は格段に良い。
 
「2、3割漸減と言うのは、嘘じゃないみたいですねぇ?」
「そうよ。降参しなさい」
「ですぅぅ。ひっ」
 
 咎女の鋭い視線を受けて憩はミカの背後に隠れる。
 
「これで勝ったつもりですか?」
 
 咎女の言葉に、リミットが答えた。
 
「咎女ちゃん、強がりはやめるである。インクお家芸の電子線は封じたのであるからな。それに、一人で何が出来るであるか? 我々の病院に手伝いに来てくれるシウさんの手前もあり、咎女ちゃんに怪我させるのは本意ではないのである、だから降伏を……」
 
 咎女は、笑った。
 そして、パチンと、指を鳴らす。
 ガコォォン、と、巨大な機械の始動音が響いた。続けて、ジェット機のバーナー音。
 ヒョォォォォーン……
 そして、拠点の照明が、ぽつぽつと点灯し始める。
 リミットは一瞬だけ怯んだが、すぐに気が付いた。
 
「自家発電設備であるな? しかもジェットエンジンの」
 
 ミカは躊躇していなかった。初期戦果のアドバンテージを生かすべく、咎女を排除しなければならない。
 
「かつての、未来の、今の主ここに在り、白雪の小人よ、地を貫き現れよ……」
 
 三人の小人の使い魔が現れ、一斉に咎女に向けて針を投げる。咎女はそれをかわし、憩の銃弾も左右に避けてミカに突入。跳躍して飛び蹴りを見舞うところ小人が身代わりとなって一体撃破。
 ミカは咎女と手四つの態勢なり、咎女の動きを止めた。
 
「今よぉ!」
 
 二人の横をリミットと征はすり抜けて、電源が回復して今にも閉じようとしている扉の隙間から身を滑らせて中に入る。すかさず第二の扉にリミットはバズーカ発射。そして破損した扉をくぐりぬけた。第一の扉が閉まりつつある。ミカと憩が咎女とやり合っている。
「ミカさんっ!!」
 
 その姿が一瞬だけ見えたと思うと、ピシャリと完全に扉は閉まった。
 
 
 
 
 
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 一方、施設内のキッチンでは電源が切断し、大混乱である。
 
「IHだから料理が出来ないわっ!」
「地下でガスはアブナイですもんね」
「これでは銃の狙いが定まらないな」
 
 こちら例の三人組である。暗闇の中、目だけがパチクリしている。
 
「暗闇でも出来る料理は無いかしら?」
「闇鍋でしょうか?」
「はき、タダの語呂合わせではないか」
「もう、はきさんったらマジメに考えて。熱が無くても出来る料理よ」
「では、冷やっこで」
「それはいいな。貴重な蛋白源だ。あ、それとおが……あゆみちゃん、さっき切ったキャベツにソースをかければいいのではないか?」
「料理とは言えないけれど、仕方ないわね。そういえばご飯は炊けてるかしら? はきさん、見てもらえる?」
「はいはい、おっと、あ痛ぁっ!」
 
 はきはバタリと倒れ込む。
 
「ん? はきどうしたのだ? ……ぎゃっ!」
「んもう、何してキャッ、今何か触ったぁっ」
「わっ、私では無いぞっ」
「僕はここに倒れてますよ」
「じゃ誰よっ!」
 
 イデアが答える。
 
「嫌な話を思い出したぞ。ここは昔、江戸を守る海上要塞だったそうだ。しかし第六台場だけ建築工事が上手くいかず、人柱を立てた。それ以来、人柱にされた女の幽霊が“出る”ようになったとのことだ。だから今でも整備されず、東京湾の無人島として残されていると言う」
「ななななんでこんな時にそんな話するのよっ」
「我々はウィザーズ・インクですよ? 幽霊なんてそんなハナシ信じるワケが」
 
 イデアは、その声を頼りに手探りで、はきの足を掴んだ。
 
「ぎゃあああああああ!」
「はき、どうしたのだ?」
「今なんか触ったぁああああ!」
「いるんだわ! ホントにいるんだわっ!」
 
 怯える二人を尻目に、先ほどの仕返しに成功して得意満面のイデアであったが、少し引っかかるものがある。
 (最初にあゆみに触れたのは、一体誰なのだろう……)
 
 
 
 
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 キッチンから3ブロック奥の研究室では、一層深刻な事態に直面していた。
 
 <ユウキくんっ、研究施設が襲撃を受けているのっ! 救援に来てっ! >
「……みんなが戦ってる、なら、助けにいかないと……」
 
 咎女からの緊急連絡を受けたユウキは、江戸川区から第二控室へ転移。そこで待ち伏せ攻撃を狙うが、既に主電源の供給を断たれており、真っ暗で、研究室が心配でならない。そこで壁伝いに廊下を歩き、研究室に辿り着いた。
 そこには、我歩とおりべー、リーリオ、浅川がいる。
 暗闇の中、仲間がいるというのは、心強いものである。
 リーリオは携帯電話に怒鳴っている。
 
「はいっ、だから襲撃ですよっ! 見つかった以上、この研究所は充分に機能を果たせないよね。早めに引き払ったほうがいいと思うんだ」
 
 ユウキはリーリオに言った。
 
「敵は4名。さっき咎女さんから連絡が」
 
 リーリオは指でOKと合図をする。
 
「異端教会の4人の魔術師だそうです。手筈通りデータを拠点に転送してから、通信機器破壊して撤収……え? ダメ? なんで……あ、はい。確認後ということで。はい……確認結果によっては『死守』。でも僕の一存では……もちろん僕は怖くなんてないよ……」
 リーリオは電話口を押え、一度耳を離すと、部屋にいる全員に聞いた。
 
「『死守するのは怖いか?』だって」
 
 暗闇の中、ほんのわずかに浮かぶ全員の輪郭が、首を振った。
 リーリオは電話に戻る。
 
「全員、怖くなど無い、と。はい、了解」
 
 リーリオが電話を切ると同時に地下から機械音が響き、ジェットエンジン発電設備の唸りが聞こえる。そして、薄明るい予備灯がついた。
 
「お、予備電源に切り替わったな。これでデータ転送は可能だが、問題は、アレだよな」
 
 研究室の監視ディスプレイには、全面に赤でR.I.P.マークが表示されていたが、それが徐々に緑のACTマークに切り替わってゆく。しかし、肝心のデータベースサーバーは死んだままだ。
 ユウキはそれを不思議そうに見上げながら聞いた。
 
「アレって?」
 
 浅川は、数人の研究スタッフをジロリと見る。
 
「誰だよドジったのは。まあ、事の次第を説明するとだな……」
 
 浅川はユウキに語り始めた。
 
 
* * * * * * * * * *
 
 ――夕刻のことである。駆馬からの届け物だと、第六台場に魔術師が来た。
 応対に出た研究施設のスタッフは、駆馬が野球盤にこだわっていたことを思い出し、その形、大きさからてっきり野球盤だと思い込んで奥の研究室まで持ってきたのだ。
 その包みを見て浅川が聞いた。
 
「おい、なんだこれは?」
「はい、野球盤だと思います。駆馬さん、随分お好きみたいですから」
「ふーん。ちょっと重いな」
 
 不審そうに包みを持つ浅川に、おりべーが声をかけた。
 
「おれ野球盤であそんだこと無いんだー」
「そうなのか? じゃやってみるか?」
「勝手に包み開けたらマズイんじゃないかー」
「いいっていいって」
 
 浅川はパリパリと包みを破き始める。
 おりべーはワクワクしながら言う。
 
「それにしても、極秘の研究所に野球盤持ってくるなんて、駆馬くんよっぽどスキなんだな~」
 
 スタッフが答えた。
 
「いえ、駆馬さんじゃないですよ。代理の方が」
「代理~?」
「はい。その方は目が不自由そうでしたよ。よくここまでいらっしゃったな、と思いました」
「そうかぁ、目が不自由なら少し休んで行ってもらえば良かったのにー」
「自分もそう言ったのですが、次の配達があるから、って……」
「ふーん、マジメなんだなー。目が不自由なのに……ん? 目が不自由?」
 
 おりべーは腕組みをした。その横では、浅川が包みを取り去って今にも箱を開けようとしている。おりべーはとっさにそれを手で抑えた。
 
「その、目の不自由な配達員、オウムを連れてたりしてー。あはははははー」
「まっさかーそんなコトあるワケねーよ。あはははははははー」
 
 スタッフが答えた。
 
「よく御存じですね」
 
 浅川とおりべーの額に一筋の汗が流れた。浅川は硬直。おりべーの笑顔にはヒクッ、と痙攣が走る。
 二人の脳裏にまったく同じ光景が浮かんだ。それは魔粒子を脳内でどーにかシンクロさせてうんぬんではない。他の魔術師がいたとしたら全く同じことを思い浮かべたであろう。
 それは、してやったり、というリミットの表情だ。『白のトライブファイト!』という声さえ、頭の中でこだましてる。
 
「ああああさかわさん……」
「なあああんですかぁああ」
 
 一筋、二筋、三筋、四筋……浅川の額に流れる汗の数は、もう数えきれない。
 浅川は、その箱をまるで王様への上奏文でも捧げるように丁寧に持ち上げると、その玉座に向かう家臣のように、しずしずと歩く。
 
「おおおおりべーさあああん、出口ぃぃぃ」
「しょうちぃいいいいい」
 
 あゆみの設置したセキュリティは厳しい。IDカードをかざし、暗証番号を入れ、魔粒子認証をして……
 可哀そうなのは浅川である。
 
「むぁだですかああああ」
「むぉうすこしですうううう」
 
 しかし不思議である。焦り、必死だがこういう時、不思議と笑ってしまうものなのだ。
 その時、箱が『しゃべった』。声質は明らかにゲシュちゃんである。内容は、単なるカウントダウン。それは異端教会メンバーとして、敵に塩を送るが如くの憐みか、警察関係者としての正義感なのかはわからない。
 
 <5、4、3、2、白のトライブぅ~~~>
「おりべーさんんんっ!」
「開いたぁっ!」
 
 浅川は廊下に包みを投げ出し、急いで扉を閉める。
 ファイト! の声とともに締まった扉の向こうから聞こえる爆発音。
 と同時に、施設のあらゆる場所で轟音が連続して聞こえ、その瞬間、蛍光灯が一斉に消えた。
 
* * * * * * * * * *
 
 
 ――浅川がそのときの様子を思い出しつつ言った。
 
「……というわけなんだが、悪いことは重なるもんで、廊下には分電盤があって」
「サーバーの電源も……そこから分かれている……」
「と、いうことなんだ」
 
 そのとき、我歩が少し疲れたような表情で言った。
 
「ふぅ、解析終わったぜ。ジェットエンジンはあと四時間しか持たない。
 それまでに分電盤を直し、コンピューターを再起動してデータを転送する。
 転送先はとりあえず駆馬のいる拠点のサーバーでいいだろ。
 転送方法は送信後削除しながらの“データ移動”。
 間違ってコピーすんなよ。こっちにデータ残したら元の木阿弥だからな。
 そして、転送には46分かかる……と言いたいところだが、物理回線がやられちまってる。
 だからワイヤレスで73分もかかっちまう。
 今何時だ? ええと、21時11分か。すると、あと240分でまた電源が落ちる。
 そこから逆算すると、データ転送開始までのリミットはあと167分。2時間47分だ。
 つまり、23時58分までにデータ転送を開始できなければ、俺たちはここで『死守』となる……」
 
 ユウキが付け加える。
 
「もし上手くいって23時58分に開始出来たとしても、転送が終了するまで……1時11分までは、此処を守り通さなきゃ……いけない。ワン・イレブンとは、よく言ったものだよ……ところで、研究は、どこまで進んでいるのかな……」
「アリシアさんの『サウザンドアームズ』、ミカさんの『魔を喰らう胎児』、ユウさんの『魔縮炸裂』はなんとかなりそうだ。その他も超特急で進んでる。特に『サウザンドアームズ』は二人がかりで研究してるから、対策魔術を装備できるのも2人。でも『魔を喰らう胎児』は発動されちまったみたいだぜ? なんかよ、さっきから本調子じゃないんだよなぁ」
 
 ユウキ以外、皆頷いている。
 ユウキは言った。
 
「今回は異端教会に手痛い一撃をもらった……でも」
 
 おりべーが言葉を継ぐ。
 
「うん、爆弾のカウントダウン。やっぱり異端教会は異端教会だー。どこか冷徹になれないみたいだぜ~そこに付け込む隙があるんじゃないかなー。でも、この騒ぎで黒が動き始めたら」
 
 全員がブルっと震えた。
 浅川が言った。
 
「貴重な電源をふんだんには使えねえから、電気を使ったトラップは作動しないかもな。それと、そんなこともあるかと思ってさ、俺は物理トラップをたくさん用意しておいたぜ。それを転送して仕掛ける」
 
 これが強みの一つである。言うまでもないが、ウィザーズ・インクの個人主義は“多様化”に繋がり、考えが一方方向に流されることは無い。チームワークに難があっても、それを多様化でカヴァーできるのがインクである。つまりAがダメでもB、BがダメでもCと、代替手段が無数にあるのだ。
 我歩は自分の顔をパン、と叩くと言った。
 
「よっし! 日が変わるころには逆転してやる。じゃ俺と瑞月は分電盤の修理を。トリーネさんほど早くできないかもしれないが、全力でがんばるぜ」
 
 ユウキは薙刀を実体化。そして自身に光学迷彩をほどこしながらいった。
 
「僕は、第二控室に移って、前衛を」
 
 浅川も立ち上がる。
 
「俺は第一控室にいくぜ。なるべく前にいてトラップの効果を上げたいからな」
 
 リーリオは不安そうな表情で、言った。
 
「僕は外に行くよ。部屋の中じゃニンジャアクションやりにくいしね。それに……咎女さんのことも、心配だから……ユウキくんに連絡した後、戻ってこない……」
 
 おりべーも気合いを入れる。
 
「じゃあ、みんな自分の任務を忠実に果たそうぜ~」
 
 全員が、無言で頷いた。
 インクの魔術師たちは個人主義であるが、決して利己主義では無かった。それは分担作業にこそ威力を発揮する。ただ、一点集中で攻撃を仕掛ける時は、その多様化ゆえに威力が薄まることもある。
 その点、白の一点集中は敵ながらあっぱれ、と赤の魔術師たちは思っていた。もちろん、黒にも一点集中攻撃の強みはある。
 ただし、それには一つ、ピースが欠けていた。そのピースが指し示す方向性にイェーガーの魔術師たちは一斉に舵を切る。
 
 そのピースとは、
 ……ニナ・ファウストである。
 

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