Prehistoric
(魔術師編年史 完全版)
ここに本編が始まる前の、魔術師たちの歴史を記述します。
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<異端教会設立前の中世暗黒時代から、3種の魔粒子が発見された近現代までの歴史>
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<1439年9月22日>
○眠り児レオン・アーデルハイム、現フランス・ドイツ国境付近の
アルザス・ロレーヌ地方にて、落とし児に遭遇する。
襲撃を受けて命を落としかけた所を、眠り児トリスタニア・アルブスと
魔術師ソルピニア・アルブスの姉妹に救われる。
○レオン、異端狩りに追われていたアルブス姉妹を保護。
代わりに魔法研究の協力を頼み、それをきっかけに3人の共同生活が始まる。
<1440年9月25日>
○レオンとアルブス姉妹、穏やかな生活を送る。
しかし異端審問者の追手により、ソルピニアが殺害される。
ソルピニア、遺物『最果ての一羽』となる。
○この悲劇によりレオンとトリスタニア、魔術師として覚醒。
ソルピニアの遺言に従い、虐げられた魔術師を救う為の旅に出る。
<~1446年>
○レオンとトリスタニア、6年間に亘り、同胞の魔術師を探す。
しかし2人が魔術師としてまだ未熟だった事もあり、捜索は進まず。
異端審問官の追撃も厳しく、同胞の捜索よりも逃避行が主となってしまう。
○レオンとトリスタニア、逃亡の果てに辿り着いた日本の相模国(現神奈川県)で、
練達の女魔術師『他化自在天 散華』と出逢う。
助力の承諾は得られなかったが、レオンたちは散華から東洋儀式魔術を習う。
また不老の肉体をもたらす丸薬『幼老丸』を貰い、どこまでも旅を続ける事が可能になる。
<1449年>
○レオンとトリスタニア、散華の助言に従い、欧州に帰還する。
そこでは境界の壁の局所脆弱化により、巨大な窓が開いていた。
二人は急速に増える魔術師や眠り児を保護する為、全力を尽くす事を誓う。
○レオンとトリスタニア、多くの魔術師や眠り児を救う。
教会側はこれに反発。魔術師を狩る為の専門部隊を組織。魔術師の弾圧に血道を上げる。
以降、魔術師とキリスト教会の闘争は30年以上にも亘って続く。
<1480年>
○熾烈な闘争の中で、レオンとトリスタニアは、
キリスト教会の修道女でありながら魔術師となった少女『アリア・ローゼンクロイツ』と出逢う。
アリアの固有魔法は、あらゆる物理攻撃を跳ね除け、争いを強制停止させる力『聖域創造』。
この能力を用い、アリアは多くの魔術師を救う。
以降、アリアも加えて3人で、魔術師の保護に力を尽くす。
<1482年>
○アリア・ローゼンクロイツ、魔術師たちを救う為に自ら殉教。遺物『聖域の薔薇』となる。
彼女の死と引き換えに、魔術師たちは迫害から解放される。
○アリアの遺志を継いだトリスタニアとレオン、世界で最初のトライブ『異端教会』を設立。
魔術師たちの保護体制を構築する。
かくして魔術師たちの居場所が確立し、トライブの歴史が始まる。
※レオンとトリスタニアは、アリアの死を契機に第二覚醒する。
<1518年>
○レオン、20年以上かけて、魔導書『暁の書』を執筆。
それまで西洋で広まっていた魔術とは別の流れとなる、『新魔術体系』とでも呼ぶべき理論を提唱する。
・レオンはまず魔粒子を発見し、その性質をおぼろげながらも把握した。
曰く『魔粒子は魔術の源である。人の想いに反応し、心で思い描いた事を実現させる力をもたらす』。
(※この言説は遥か後に、赤の魔術師たちによって、科学的にも実証される)
・レオンはさらに、この世界に時折開く黒い穴のようなものから、魔粒子が流れ込んでくる事を確認。
その向こうに、自分達がいる世界とは別の世界が広がってる事を推察した。
また、2つの世界の間には、眼に見えない壁のようなものがある事を知覚。
そこから各用語を定義する。
・自分達のいる世界が『現世』、その隣にある別の世界が『隣世』。
・魔粒子によって通常の世界ではなくなってしまった場所は『異界』、現世と隣世の境目は『境界』。
・現世と隣世を隔てる不可視の壁は『境界の壁』。境界の壁に開いた穴は『窓』。
・魔術師に成り損ねた者が生み出す怪物を『落とし児』。
・未熟な魔法使用者(それまで魔術師と呼ばれていた者を含む)を『眠り児』。
・真の魔術の力に目覚めた者を『魔術師』。
・両者の総称を『魔法使い』。
・魔術師が死亡時に遺す品を『遺物』と名づける。
・魔粒子が数種類あることや、魔術師になるための正確な条件などは不明のままだったが、
今日まで伝わる魔法学の基礎がここで確立される。
<1550年>
○異端教会、欧州各地に8つの支部を立てる。
各支部の長として、8人の精鋭魔術師が選ばれる。またそれらの魔術師に、二つ名も与えられる。
○それに伴いアリアの二つ名が『聖女』、トリスタニアの二つ名が『魔女』とされる。
(レオンは特に二つ名を持たなかったが、後に『最初の魔人』と呼ばれる事になる)
<1552年>
○レオン、魔術師を護る為に、やるべき事を全て終える。
100年以上連れ添った戦友トリスタニアに別れを告げ、隣世の深層に旅立つ。
別れ際にトリスタニアから、ソルピニアの遺物を貰う。
※以降、レオンの消息は、現世に残った者からは『不明』とされる。
○レオン、隣世深層に足を踏み入れる。
以後、隣世の魔粒子に侵食され、徐々に人間と落とし児の中間のような生物になっていく。
だがソルピニアの遺物の庇護により、そんな肉体となっても精神の平行は保てた。
それからレオンの永い独り旅が始まる。
<1597年>
○現世にて、落とし児ルー・ガルー出現。
仏パリ郊外の森『銀の森』で、異端教会の魔術師らと死闘を繰り広げる。
陣頭に立って戦ったのは、魔女トリスタニア。
○事件収束後、それまで魔術師を保護する事を主目的としていた異端教会は、
戦闘集団としての側面を強化。現在の形のトライブが出来上がる。
<1599年>
○急速に勢力を伸ばす異端教会に対し、イングランド国教会はこれを『教会』と認めず、
『異端の種族(Heresy tribe)』と揶揄する。
以降、魔術師の集団については、内外で『トライブ』という呼称が一般化していく。
<1601年>
○異端教会の魔術師たち、魔粒子が少なくとも2種類以上ある事を確認する。
また魔術師が発現する一人一種の特殊な魔法を、『固有魔法』と名付ける。
更に前述のルー・ガルーのように、高い知能を持つ特殊な落とし児を『知的個体』と名付ける。
<1675年>
○魔女トリスタニア、魔術師になる為の正確な条件を、統計と経験則から割り出す。
曰く、
『魔術師になる為の肉体的・精神的適性を持っている事』
『一定量以上の魔粒子をその身に浴び、眠り児になる事』
『その上で、強烈なきっかけを伴う激情と共に、力を欲する事』
『なお自らの現状に満足している者は、基本的に魔術師にはなれない。
世界を変えたいと思うような何らかの理由、即ち悲劇的な経験が必要』
との事。
即ち、上記の条件を一言で言うならば、
『魔粒子を浴びて眠り児になった後、悲劇を経験する事』
これは今日まで伝わる、魔術師世界の常識となる。
<1697年>
○かつて魔術師たちに討たれたはずの知的個体ルー・ガルーが、100年の時を経て復活。
一般人の死者3000人を出す大惨事となる。
異端教会は総力を上げて、再びこれを討滅する。陣頭に立ったのは今回もトリスタニア。
○この事件を受けたトリスタニアは、今後は落とし児討滅と人々の保護に専心する事を決意。
異端教会の運営主導権を、部下たちに委任する。
※教会側はこの戦いにより、ルー・ガルーは100年周期で復活する特殊な落とし児である事を推察。
次回以降はそれを予測し、万端の準備のもとに迎え撃つ事とした。
<1698年>
○先の戦いの経験により、一定量以上の魔力を持つ魔術師が二度目の悲劇を得ると、
更なる魔力と能力を得るという事実が判明する。
この現象は『第二覚醒』と名付けられ、第二覚醒を遂げた者は『魔人』『魔女』と呼ばれる事になる。
<1761年初頭>
○黒の魔術師ヨハン・シュバルツシュミット、フロイライン・ファウスト、アドルフ・メフィスト、
黒のトライブ『シュバルツイェーガー』を設立。
○フロイライン・ファウストが、初代黒の魔女に就任。
アドルフ・メフィストが、初代黒の魔人に就任する。
またそれに対抗する形で、トリスタニアが初代白の魔女として担ぎ上げられる。
<1761年秋>
○白と黒のトライブ間で、小競り合いが頻発する。
トリスタニアは白と黒それぞれの正義・理念・理想を理解し、双方を救おうと悩み抜く。
それにより彼女の心の中に、狂暴な別人格『アーテル』が生まれ、最終的に心が分裂する。
○トリスタニアは相反する2つの心に苛まれながらも、白と黒の折衝や、抗争の調停などを行う。
※この時期のトリスタニアは、既に教会の運営からは離れ、
白の象徴にして生きた抑止力と呼ぶべき存在になっていた。
その力を利用したがる白の強硬派と、あくまで黒を救おうとする白の穏健派と、
それを狩って遺物化したがる黒の魔術師たちとの間で、トリスタニアは孤立を深めていく。
<1764年10月14日>
○隣世に旅立ったレオン・アーデルハイム、200年以上の彷徨の末、隣世最深部に辿り着く。
そこで隣神に遭遇し、死を賭して挑む。
○レオン、隣神の攻撃により致命傷を受けるも、ソルピニアの遺物を使用して隣神を封印。
この事を他の魔術師たちに伝える為、現世に帰還する。
○レオン、現世に辿り着いた直後、遂に力尽きる。
その途上、隣世の魔粒子に精神を侵食され、心は殺意と憤怒に占められていた。
だがそれでもなお残っていた『隣神を討たねば』という使命感が結実。
遺物『夜の書』と成り、現世に遺される。
<1764年10月19日>
○トリスタニアが固有魔法『遍在の眼』で、レオンの遺物を発見。
レオンの死に場所となった屋敷に向かい、変わり果てた彼に再会する。
○トリスタニア、夜の書を手に取る。
その瞬間、書の意志による精神変容が発生。
分裂した二つの心が、夜の書の意志の元に統合。第三の人格『ルーフス』が誕生する。
以降、下位人格2名はルーフスの管理の元、世界を救う為の行動を取り続ける。
※なおこの時点でトリスタニアの魔力は莫大なものとなったが、それはあくまで夜の書の効果によって
強大化したものであり、全てが自前の魔力というわけではない。
夜の書を手放せば、元の魔力に戻ってしまう(それでもこの時点で現世最強の魔術師ではあるが)。
なのでトリスタニアは、夜の書無しでも人外の魔力を発揮できるよう、ここから百年以上かけて
研鑽を積み始める。
<1764年冬>
○トリスタニア、異端教会を脱退。
抗争を調停する第三者機関『調停者』を、一人で立ち上げる。
多くの魔術師の反対を受けるが、以前にも増して高い魔力を得たトリスタニアの行動を、
誰も止める事はできなかった。
○トリスタニアの仲介の元、異端教会及びシュバルツイェーガーは、旧『存在秘匿協定』を締結。
魔術師全体の利益と安全のため、魔術師の存在を世に秘匿する事に合意する。
抗争のルール等も、細かく明文化される。
※以降、細かな条文は歳月と共に有名無実化していくが、最も重要な『存在秘匿原則』だけは、
魔術師世界の絶対的な法として残り続ける。
○白を抜けたトリスタニアの後任者として、二代目『白の魔女』マリエル・シンクレアが任命される。
以降、白の魔女という二つ名は、襲名制の名として後代に受け継がれていく。
<1797年>
○知的個体ルー・ガルー、三度目の出現。
これについてトリスタニアは、不干渉を宣言。異端教会の魔術師のみでこの討伐に当たる。
以降、ルー・ガルーの討伐は、歴代白の魔女の使命とされる。
<1876年>
○日本にて御統鴉と他化自在天散華の間に、決定的な対立が発生。
散華の部下の魔術師たちと鴉の、壮絶な戦いが始まる。
鴉はこの戦いに勝利し、多数の遺物と魔力を得る。
また散華は戦いに敗れて死亡。遺物『幼老丸』となる。
<1895年>
○御統鴉、ユーラシア大陸を放浪した末、欧州に渡る。
そしてシュバルツイェーガーに入る。
<1897年>
○知的個体ルー・ガルー、四度目の出現。
九代目白の魔女ステラ・ギリアムと、神罰の魔人フリオ・バンディーニを中心に、
異端教会の面々がこれを討伐する。
○ルー・ガルーは今回の死に際し、『扉の彼方』『全てを覆す者』など、
隣世深層や隣神の存在を示唆するいくつかのキーワードを残す。
これを機にレオンがいなくなってから頓挫していた、隣世の深層研究が再開される。
<1900年>
○焦熱の魔術師エレクトラ・フィンケル、落とし児との戦いで死亡。
恋人のアルバート・パイソンは生き残る。
アルバートはその後、シュバルツイェーガーに身を寄せる。
<1905年>
○トリスタニア、長い研鑽により、夜の書の魔力を完全に我が物とする。
そして、夜の書の次の所有者となるべき魔術師の選考を始める。
<1906年春>
○白と黒のトライブ間で、全面抗争が勃発。
生命の魔女エレミー・ネヴァーモア、黒の総帥ヨハン・シュバルツイェーガー、
十代目白の魔女エリザベート・ディミトリエフ、十代目白の魔人オーギュスト・ブルグ、
十八代目黒の魔女ライラ・ファウスト、十六代目黒の魔人レネ・メフィスト、
神罰の魔人フリオ・バンディーニ、博覧の魔女御統鴉、
隻腕の魔人アルバート・パイソン、重力の魔人ハーシェル・フリードマン、他多数参戦する。
(※名称・二つ名は参戦当時のもの)
<1906年初冬>
○全面抗争のさなか、白の魔術師ルイーズ・シンクレア、トリスタニアから夜の書を与えられる。
固有魔法が『人間創造』だったルイーズは、書の意志に従い、世界を救う為の行動を取る。
ルイーズが取った方法は、『窓を閉じられる魔術師を創る事で、隣神の侵攻を阻止する』。
○ルイーズ、黒の眠り児セイ・クローネンバーグの協力を得て、人造魔術師の創造に成功。
窓を任意に開閉できる唯一の魔術師、『境界の魔女リン』が誕生する。
※以降、リンはルイーズとセイの『娘』として育てられる。
これらの経緯は、異端教会にもシュバルツイェーガーにも伝えられなかった。
<1906年末>
○白黒全面抗争終結。多くの犠牲を出した上で、和平に至る。
<1908年>
○フリオ・バンディーニ、異端教会を脱退。調停者となる。
<1910年>
○御統鴉、シュバルツイェーガーを脱退。調停者となる。
<1911年>
○カール・ウルフェンシュタイン誕生。
<1918年>
○ルイーズ・シンクレアとセイ・クローネンバーグ、病により死亡。
だが死に際して、自分たちの全魔力を、娘であるリンに合成する。
○境界の魔女リン、己の使命を果たす為の知識と魔力を得る。
だがリンは、自分が人造魔術師である事は、両親から最後まで伝えられなかった。
そうしてリンは、自分の真の出自も知らされぬまま、長い長い一人旅に出る。
※リンの両親は、娘が人の心を失う事を恐れ、夜の書をリンに見せないままマッターホルン山に封印した。
夜の書には結界が施され、一定以上の力を持つ魔術師でなければ発見できないような処理がなされた。
<1923年>
○カール・ウルフェンシュタイン、眠り児となる。
落とし児に襲われていたところを、リンに救われる。
○リン、カールに魔法を教える。共に過ごすうちに2人は仲良くなる。
だが『自分の固有魔法の秘密を知られてはならない』という両親の忠告を守ったリンは、
何も言わずにカールの元を去る。
以降、カールはリンとの再会を望み続ける。
<1944年>
○眠り児カール・ウルフェンシュタイン、第二次世界大戦の戦火の中で死亡する。
だがそれをきっかけに魔術師として覚醒。不老不死の固有魔法を発現する。
<1945年>
○アルバート・パイソン、同種の力を持つ魔術師らと共にアメリカに亡命。
赤の魔術師のトライブ『ウィザーズインク』を設立する。
<1948年>
○魔術師カール・ウルフェンシュタイン、マッターホルン山中にて『夜の書』を発見。
世界の秘密を知り、己の使命を悟る。
以後、『ナハトブーフ』と名を改め、使命のために生きる。
<1951年>
○ナハトブーフ、シュバルツイェーガーに入る。
<1958年>
○アルバート・パイソン、ウィザーズインクを脱退。調停者となる。
<1962年>
○赤の魔人ロビン・マクスウェルと赤の魔女リア・ラプラス、3種の魔粒子を科学的に観測。
またその性質もほぼ解明する。
曰く、『あらゆる魔術的現象は、魔粒子が人間の精神活動に反応する事で起こる』。
400年以上前にレオン・アーデルハイムが提唱した理論は、ここで改めて実証される。
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