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魔術師殺し・波良闇秋水


その日、鷹野春道は異端教会の依頼を受け、新宿地下道に現れた落とし児を退治していた。

とはいえ春道一人に来た依頼だ、大した相手ではない。ヘンゼルが3体のみだ。

 

春道はそれを、ドレインナイフでさくっと倒した。仕事は終わりだ、店に帰ってゲームの続きでもやるか。

そう思った時、背後から声をかけられた。

 

「よーよー、見てたぜ。お前アレだな、魔術師だな?」

 

振り返ると地下道の奥に、怜悧な顔に笑みを浮かべた、茶髪の男が立っていた。

年の頃は二十歳絡みか。背はやや低く、服装はタンクトップにカーゴパンツ。トライバル柄のタトゥーを入れた腕は、

筋肉が引き締まっている。

精悍な肉体に、人懐っこい笑顔。春道はやや警戒しつつも、「そうだよ」と答えた。

 

その言葉からすると、向こうも恐らく魔術師だろう。だがその身から感じる魔力は、明らかに春道より低い。

仮に敵だとしても、一人で対処できそうだ。そう思いながら、春道は探るように問いを返す。

 

「オレはちょい前に魔術師になってね。まぁトライブに所属してんだかしてないんだかって感じで、

 プラプラやってる。自分で言うのも何だけど、限りなく一般人に近い、無害な魔術師だよ」

「そうか、そういう魔術師もいるんだな? 俺もトライブとかいうのには参加してねぇが、親近感湧くぜ」

 

男がそう言って笑う。春道もつられて笑いかけた時、

 

「まぁそれはそうとして、死ねや魔術師」

 

男が突如、『バールのようなもの』を創造し、春道に殴りかかってきた。

 

「はぁ!? ちょちょちょ、どういう流れだよ!」

「魔術師は見つけ次第、狩るって決めてんでな。オメーはイイ奴っぽいがまぁ死んでくれ」

「ざっけんな!」

 

春道は身体強化魔法を発動し、バールの一撃を回避する。

(どうやら白の魔術師らしいが、練度はオレの方が上だ! 速攻キメてやる!)

そう思いつつ、男の背後に回り込む。そしてナイフの柄で男の後頭部を殴り、気絶させようとしたが――

 

「甘ぇ!」

 

瞬間、男の背から黒霧が湧き上がり、春道の打撃を止めた。

同時に男の周囲に赤いウィンドウが浮かび、小さな火球がいくつも生み出される。

 

「んだこりゃ、黒と赤の魔法!? 何モンだお前、なんの魔術師なんだ!?」

「お前が知る必要はねぇよ。何故ならもう死ぬから」

 

黒霧と火球が同時に春道を襲う。底知れぬものを感じた春道は、止む無く全力で撤退。

男の「逃げても無駄だぜ、探し出して殺すからな」という声を背に聞きながら、そのまま地下道から出たのだった……

 



「……ってな事があったんだけどさ。祈ちゃん、なんか知らない?」

 

男から逃げ出した春道は、店には戻らず、そのまま異端教会の拠点に駆けこんだ。

魔術師を狙う者がいるなら、祈に相談した方がいいと思ったのだ。すると祈は話を聞くなり、表情を曇らせる。

 

「腕にタトゥーを入れた男と言いましたね……恐らく彼でしょう」

「彼?」

「『波良闇 秋水(はらやみ しゅうすい)』――魔術師殺しと呼ばれる危険人物です。

 動機や背景はわかりませんが、毎年夏になるとどこからともなく現れ、魔術師を何人か殺して姿を消す。

 いわば『季節限定・魔術師専門の殺人鬼』です」

「魔術師専門の殺人鬼!? そんな奴いるのか……!」

 

元より殺人鬼の思考など埒外だが、一般人より遥かに殺すのに手間がかかるだろう魔術師だけを狙うとは、

普通のシリアルキラーよりさらにどうかしている。春道は戦慄しつつ、問いを重ねた。

 

「でもあいつ、なんか妙だったぜ? 魔力は弱く感じたのに、ナハトブーフみたいに3種の魔法を全部使ってた。

 いったい何の魔術師なんだ? 白、黒、それとも赤?」

 

その問いに祈は首を振る。

 

「そのどれでもありません。

 お忘れですか春道さん? 高位の魔術師以外にも、3種の魔法を全て使える存在がいることを。

 そしてあなたも私も、かつては"それ"だった事を」

「え? ……って、まさか」

「そう、波良闇秋水は『眠り児』。魔術師ではない、覚醒前の眠り児なのです」

 

その言葉に春道が愕然とする。

そういえば魔術師になる前に、ラプラスから聞いた事があった。

『眠り児のうちは魔力が低いが、3種の魔法を初歩的ながら全て使える』と。

 

「じゃ、じゃあ何か!? 波良闇って奴は眠り児なのに、力で勝る魔術師を次々に殺してるって事か!?」

「ええ、初歩的な三種の魔法、『武器創造』『物質分断』『熱量操作』などを駆使して。

 しかも魔力は低いですが、殺した相手から遺物を奪い、使える能力は増え続けてます」

「シリアルキラーで眠り児で、しかも遺物コレクターかよ……そんな訳わからんのに、眼ぇつけられちったのかオレ」

 

ゲンナリしながら春道が言う。祈は安心させるように言った。

 

「ご安心下さい、私たちが護りますから。

 それに『魔術師殺し』は、ナハトブーフ程ではありませんが、3トライブ共通の敵。

 黒も赤も、今ごろ対処に動いている事でしょう。必ず事件を収束させます」

 

祈の言葉に春道が、ようやく安堵の表情を浮かべる。

その後、祈から黒と赤にも、魔術師殺しの出現報告が送られた。

そうして各トライブが、魔術師殺し捜索に動き出したのだった……

 


▼行動選択肢
①魔術師殺しを捜索する
②魔術師殺しを殺し返す
③魔術師殺しについて調べる
④魔術師殺しを仲間に引き込む

 

断章争奪戦が本格化するまでの運営序盤、3トライブ共通の敵として登場する予定だったキャラの登場エピソードです。

 

彼は『作中最強の眠り児』をコンセプトに、運営前から用意されていた古株キャラ。

しかし運営初期に、弊チームが別件で運営から遠ざかっていたため、登場時期を逸してしまった不遇の人です。

 

性格はバトルジャンキーで、やってる事は酷いが、ある種の美学と哲学があり、明るく憎めない狂人という感じ。

後のアーテルに、その要素が一部引き継がれた感じもしないでもないですね。

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