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【特別篇】青の魔術師


ある夜、街の片隅の廃ビルの一室。

そこでは10人ほどの黒の魔術師たちが、全身に傷を負い、倒れていた。

そこに穏やかな声が浴びせられる。

 

「おやおや、黒の魔術師とやらもこんなものか。少し拍子抜けだね」

 

そう言ったのは、長身痩躯の青年だった。

長い銀髪に銀縁眼鏡。濃紺のマントを羽織り、薄笑いを浮かべている。

 

この青年は会合の場に現れるなり、問答無用で魔術師たちを叩きのめしたのだ。

やがて倒れていた魔術師の一人が、ふらつく足取りで立ち上がる。

 

「き、貴様、何者だ……!」

 

この場に集まっていたのは、決して雑魚ではない。長年黒に所属している、古参の魔術師たちだ。

だが彼らの黒霧や銃は、男にはまるで通用しなかった。

 

「我らの捉え損ねた在野の魔術師か……それとも白や赤の隠し玉か!?」

 

そう問う魔術師に、青年が肩をすくめる。

 

「白? 赤? 僕らはそんなものじゃないよ。もちろん黒でもない」

 

青年はそう言って、魔術師に歩み寄る。どこか空虚な笑みを浮かべて続ける。

 

「遅ればせながら自己紹介しよう。

 僕の名前は、オーキッド・ソロモン。

 ――青の魔術師さ」

 



「青の魔術師が出たですって!?」

 

それから数時間後。3トライブ共同の集会所となった新宿拠点にて。

祈はニナの報告を聞くなり、驚きの声を上げていた。

ニナは重く頷き、答える。

 

「ああ。うちの古参魔術師が使っていた集会場が、何者かに襲撃された。

 全員命に別状はないが、ずっと気絶したままで、うわごとを繰り返している。

 その内容が、『青の魔術師にやられた』というのものなのだ」

 

ニナの言葉にラプラスが「青の魔術師って? そんなのいるの?」と尋ねる。

祈とニナは何か知っているようだが、ラプラスは聞いた事もない単語だった。祈が頷いて説明する。


「結論から言うと、青の魔術師は存在します。いえ、『していた』というべきでしょうか……」

「過去形? 今はいないって事?」

「ええ。今から450余年前、異端教会始祖レオン・アーデルハイム様は、新魔術体系を構築しました。
 それを元に現在のような白・黒・赤の魔術分類が為され、それまで西洋で広まっていた
 旧式の魔術は消えて行ったと……
 その旧い魔術師たちを、私たちは便宜上『青の魔術師』と呼んでいたのです」
 
青とは黎明の空の色。『暁の書』が書かれる前の魔術師の色を指すという。
  
「ちょい待ってよ祈? 赤には伝わっていないんだけどその話」

「赤でもアルバートさんなど、古参の方ならご存知のはずです。
 しかし重要ではないと考え、若い皆さんには伝えなかったのでしょう。
 なぜなら青の魔術師は、白・黒・赤の魔術師と比べて、遥かに力が低かったから。
 そして以後数百年にも亘り、姿を現さなかったからです」

「じゃあなに? その青の魔術師とやらが、数百年かけて力を蓄えて、

 今さらあたしたちの前に姿を現したっていうの?」

 

ラプラスがそう言った時、不意に『ガシャン!』と、ガラスが割れる音が響いた。

振り返ると、ヒキガエルが窓を破り、部屋の中に入ってくる姿が見える。

 

「カエル……? なんでこんなとこに、っていうか窓を破るって――」

 

ラプラスが眉を潜めつつ、カエルに歩み寄る。

見ればそのカエルは、口に何か手紙らしきものを咥えていた。

それを開くと、手紙には以下の文章がしたためられていた。

 

 

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 『はじめまして魔女の皆さま。

  黒の方々へのご挨拶、お早くお耳に届きましたようで、まずは重畳と存じます。
 

  そう、我々は青の魔術師。歴史に埋もれていった古き魔法使いです。
  白・黒・赤の皆様におかれましては、ますますご清栄の限り。
  しかし我らもこのまま忘れさられるのは、少しばかり寂しくあります。
  そこで一つ、我らの力試しにおつきあいいただけませんか?

 

  これより我らは、3つのトライブに戦いを挑みます。
  弱き魔術師たちには用はございません。我らは狙うは、たった4名。
  高天原衛示様と祈様、ニナ・ファウスト様、エスティ・ラプラス様です。

 

  この4人のお命を頂戴しましてから、我ら青の魔術師は、再び歴史の闇に帰ります。
  それまでしばしお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。

 

                                 青の魔術師 オーキッド・ソロモン』

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――ラプラスたちが手紙を読み終えると、ヒキガエルは青い炎に包まれて消えた。

どうやら魔術……それも、白黒赤のどれとも微妙に違う魔術のように見えた。

ラプラスが薄気味悪そうに呟く。


「トライブの事も、幹部の名前も知っているの……? しかも狙いは幹部のみって!?

 祈にニナ、奴らの能力はなんなの?」
「私たちにもわかりません。記録が古すぎて、全くあてにならないのです」
「黒も同様だ。調べる必要があるな……能力だけではない、こいつらの背景や思惑も。

 この3トライブが共闘している状況で、各幹部を皆殺しにするというのだ。生半可な敵ではあるまい」

 

その言葉にラプラスが固く頷いた。

和平を迎えてから、初めての本格的共同作戦となるだろう。

 

「しゃーないわね……和平直後で微妙な時期だし、変な事件はとっとと終わらせるわよ。

 3トライブの全力注いで、青の魔術師とやらを捕らえよう!」
 

 

行動選択肢

①青の魔術師を捜索する

②青の魔術師の背景を調査する

③青の魔法自体の調査をする

④その他

調停者編5話で、一時的和平が結ばれていた場合、派生していたシナリオです。

 

早々に和平に至ってしまう為、バトル系の話を増やす為と、伏線回収等を行う為。

また闘争が少なかった分、各トライブのパワーアップをさせる為のシナリオです

青の魔粒子が存在するかはどうかは、皆さんのご想像にお任せいたします。

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