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【地域占領戦】シュバルツ・ブリッツ・クリーク


新宿での地域占領戦は、黒の敗北に終わった。

新宿のパワースポットは白赤同盟の手に落ち、ニナは重傷を負った。

飛び石となった渋谷と目黒もじきに落とされ、黒はどんどん劣勢になっていくだろう。

 

夜の書の捜索も重要だが、これ以上占領区を失っては、黒は東京での組織維持が不可能になりかねない。

書の捜索と同時進行で、早急に占領区を取り戻さなければならないのだ。

ニナ不在の戦略会議で、黒の強硬派の魔術師たちが口々に話す。

 

「重傷のニナ様には、これ以上ご負担をかけられない。

 今こそ我らが誇りにかけ、我らの独力で劣勢を覆すのだ」

「となるとブリッツ・クリーク(電撃戦)だな。少数精鋭の部隊を編成し、手薄な敵の拠点をいくつか同時に叩く」

「占領の維持はいかにする?」

「可能な限り自力で。また激戦区となる場所では、ニナ様から決戦級遺物『ヘキセンリート』をお借りし、使用する。

 その旨、本部からも許可が出ている」

 

苦境に立たされている黒の面々だが、士気はなお高かった。

本部から来た強硬派の魔術師たちは、短慮で血の気が多いだけの魔術師たちではない。

彼らは長く黒に所属し、黒の理想の為に戦い続けてきた。その為ならば死も厭わない、真正の猟兵たちだ。

 

「……たとえ我らがこの戦いで命を落とそうと、シュバルツイェーガーの意志を体現する事は出来る。

 それは恐らく日本の魔術師たちの心にも、ひいては敵の心にすらも、何かを残すはずだ。

 それがいつの日か、黒の悲願を叶える為の礎になるならば……同胞たちよ、共に戦い共に死のう」

 

黒の魔術師たちは、そう言って固く頷き合う。

そこに不意に、現れた影があった。

 

「くはははは! なかなか楽しそうな話してるじゃねぇか、えぇおい?」

 

そう言った者の姿を見て、魔術師たちが瞠目する。

それは先の戦いで、魔術師たちによって鎮圧された者――

黒の襲撃者、『トリスタニア・アーテル』だった。

 

「貴様、何用だ!」

 

黒の魔術師たちが一斉に、黒霧の刃をアーテルに向ける。

刃の群れに囲まれながらも、アーテルは悠々と笑った。

 

「なぁに、黒がお困りのようだから、ちょいと手助けやろうと思ってな。

 その電撃戦に俺も一枚噛ませてくれや」

「何だと……!?」

「忘れたのかよ、俺もシュバルツイェーガーの正式な一員なんだぜ? 抗争に参加しても、何もおかしくねぇだろう。

 それにお前らの命懸けの意志、気に入った。せっかくだし一度くれぇ、お仲間として戦うのも楽しそうだ」

 

それも確かに道理だが、黒の魔術師たちは警戒を解かない。アーテルに油断なく問いを返す。

 

「襲撃者よ。先の戦いで、お前は魔術師たちに敗れ、人格封印されたと聞いた。

 今のトリスタニアは『アルブス』のはずだ。なのになぜ、またお前が動いている?」

「ああ、ちょっと訳があってな……つーかそこは気にすんな、手伝うって言ってんだから普通に喜んでくれや」

 

アーテルはあからさまに、その話題を避けているようだった。

有無を言わさぬ口調で続ける。

 

「今の俺は、体はボロボロだし魔力も下がってるが、それでも凡百の魔術師よりはいい仕事するさ。

 信用出来ねぇならいつでも背中から撃て。それも織り込み済みで来たんだしな」

 

あくまで不適に笑い、手を差し出すアーテル。真意は判らないが、共に闘おうとしている事は確からしい。

黒の魔術師たちは、長い逡巡の末、その手を握り返した。

 

「……よかろう。互いにいつでも裏切られる覚悟で、此度のみ共闘しよう」

「それでいいぜ、俺は裏切りはしねぇがな。そんじゃ俺とお前らで、東京の勢力地図を一夜で塗り替えるか」

 



――そして、そのわずか4時間後、深夜3時。

アーテルを加えた黒の魔術師部隊が、白赤同盟の4つの拠点を、同時に襲撃した。

 

港区・千代田区・文京区・中野区。

激戦の後でわずかな油断があったのか、白赤同盟の対応は遅れた。

人員でも勢いでも勝っているはずなのに、各拠点の戦いは全て後手に回る形となった。

 

新宿拠点に集まっていた魔術師たちは、急遽その対処に当たる。

衛示が「私は港区を護ります! 祈は中野区を!」と指示を飛ばし、祈が頷く。

ラプラスが「あたしは千代田区に戻るけど、文京区はどうする!?」と問い、しかし答えはすぐに出ない。

 

急な襲撃という事もあり、指揮官の数が足りないのだ。

祈・衛示・ラプラスがそれぞれの拠点を護っても、もう一つだけ手が回らない。
だが、そこで不意にかけられた声があった。

 

「困っているみたいね、衛示に祈?」

 

はっとして振り返ると、部屋の入口に童顔の女性が立っていた。その顔を見て祈が驚く。

 

「メアリさん……!? お久しぶりです!」

 

その声にメアリと呼ばれた女が、穏やかに微笑む。

『物語の魔術師』メアリ・アンバースデイ。衛示と祈に次ぐ、異端教会第三の指揮官。

滅多に姿を現さない彼女だが、この苦境を見かねて、急遽駆けつけてきたのだ。

 

「作家トバイアス曰く、『苦境は大きく、連続するほど良い。それを乗り越えてこそドラマが生まれる』。

 小説もおとぎ話も現実も同じ。この苦境を乗り越えてこそ、美しいエンドに辿り着けるはずでしょう?

 私が文京区を護るわ。お互い力を尽くしましょう」

 

細かな相談などしている暇はない。衛示たちはメアリを信頼し、文京区の防衛を任せる事にする。

そして4つの拠点を巡っての、電撃戦が始まったのだった。

 

 

 


▼行動選択肢
①衛示のいる品川区で闘う
②祈のいる大田区で闘う
③ラプラスのいる港区で闘う
④メアリのいる文京区で闘う

 

黄昏編第1話『新宿の死闘』で黒が負けていた場合、派生していたサブシナリオです。

 

新宿での地域占領戦は、夜の書の入手確率や黒のその後に大きな影響を与える一戦でしたが、

黒がここで負けるといよいよトライブ壊滅の目が出てきてしまうので、最後の防波堤として用意されたシナリオです。

これにも黒が負けていれば、夜の書は恐らく白か赤の手に渡り、終盤の展開も大きく変わっていたかもしれません。

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