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天狗の山
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「聞きました、マスター? 最近、とある山になにか出るんですって」
ある日の昼下がり、アルバート・パイソンの経営するバーにて。
ウェイトレスとしてバイト中の月舘日羽が、仕事の合間にアルバートに言った。
「出るってなんだよ、幽霊か?」
「幽霊なら、よくある話って感じですけど。なんでも『天狗』が出るらしいんです」
日羽は可笑しそうに言う。笑える都市伝説を、何気なく話したつもりだったのだろう。
だがその言葉を聞き、アルバートの表情が変わった。
「天狗……!? おい、天狗が出たってのか!?」
ぐいっと身を乗り出したアルバート。日羽は驚きつつも、噂で聞いた話を口にする。
「は、はい。その山に行った人の話によれば……
天狗っぽい恰好してたとか、そう名乗ったとか、空を飛んだとか。
顔は普通だけど、錫杖持ってたり大うちわ持ってたり、なんか天狗としかいいようがない感じだったらしいです」
聞く程にアルバートの表情が強張っていく。
「『連』の生き残りか……!? なんで今さら……!」
と呟くアルバート。訝しむ日羽に、彼はやがて意を決したように言う。
「……仕方ねぇ、ちょっと出てくる。日羽、留守番頼むぞ」
「え!? ど、どうしてですかマスター!?」
「熱烈な天狗マニアなんだよ、俺は」
アルバートはそう言うや、店を飛び出していった。
▼
――それから3時間後。東京・神奈川県境のとある山にて。
先ほどから急に降り始めた雨を受けながら、アルバートが破壊された義手を見て、渋い顔をしていた。
「クソッ、会うなりぶっ放してきやがって……!
しかも鴉から聞いてた話より強ぇじゃねぇか、久々に義手壊されちまったぜ」
アルバートは忌々しげに呟き、それから考える。
どうやら今回の件は、調停者の担当事件だ。
しかし今現在、この東京近辺で動員可能な調停者は自分しかいない。他は皆、別地域の仕事に当たっている。
「やれやれ、背に腹は代えられねぇか……!」
アルバートはそう呟き、各トライブへの通信回線を開いた。
それから魔術師たちに向けて、無差別通信する。
「聞こえるか魔術師たち、赤の調停者アルバート・パイソンだ。
緊急の仕事だ。東京・神奈川県境のとある山に、『天狗』を名乗る奴が現れた。
だがそう名乗ってはいるが、こいつは危険な魔術師。あるいは魔人魔女かもしれねぇ。
詳細は後で説明するが、とにかくこいつを捕まえるのを手伝ってほしい」
通信を受けた魔術師たちが、戸惑いの表情を浮かべているのが見える気がした。
だがアルバートは構わず続ける。
「これはトライブの仕事じゃねぇ、調停者アルバート・パイソンからの依頼だ。
今ウチは本気で人手不足だから、各トライブから人員を借りる。
謝礼は笑えるほど少ないが、それでもいい物好きがいたら頼む」
仕事内容はこの天狗の正体確認と鎮圧。そして何より重要なのは、『存在秘匿』だ。
向こうは協定の影響下にない為、無茶苦茶やってくる可能性がある。
また山の中には登山者がいるだろうから、至急探して逃がす。それも仕事の一環だと言う。
「それとこの天狗は普通の魔術師じゃない。
魔粒子色は恐らく赤だが、普通の赤魔法だけじゃなく、自然界の力を最大限に使ってくる。
戦闘時に注意すべきは、主に火と風。接近戦では錫杖による打撃。
それと――」
そう言いかけたアルバートの声が、耳をつんざくような音に遮られる。
彼の傍にあった大木が、落雷を受けて炎上していた。
「ああクソ、雷もだ! 来る奴は対策練ってくれ!」
アルバートは電流操作で雷を逸らしつつ、叫ぶように続ける。
「いいか、この天狗は相当強い! 俺と互角か、それ以上だ!
来てくれる奴は気を引き締めろ!」
それが最後の通信となった。雷鳴と共に声が切れ、以後アルバートとの連絡は断たれた。
その要請を受けた魔術師たちは、詳細がわからないまま現場に向かう。
雷鳴轟くその山で、魔術師と天狗の戦いが始まろうとしていた――
①天狗と闘う
②存在秘匿を手伝う
③天狗について調べる
④その他
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黄昏編第1話の前、PCが調停者になる事が可能になったタイミングで、
『調停者ってのはこんな組織ですよ』というのを説明する為に用意されたエピソードでした。
魔術師の世界には、かつて3トライブ以外にも無数の小トライブがあったが、
それらが滅んだり統合されていったりした果てに、現在の状況が出来ました。
その滅んだ小トライブの残党と、現代の魔術師が闘うという話だったのですが、
しかし別になくても物語は成立するだろうという事で、セルフボツに。