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(遥か昔、相模の国 ※シナリオ『天狗の山』サイドストーリー)
古来日本においては『魔法』とは、特殊な修行を積んだ陰陽師や僧侶、そして山伏が使うものとされていた。
中国陰陽五行思想から派生した陰陽道、仏教から派生した密教、古神道と密教が習合して出来た修験道。それらの正当な教義『正法』に対する、異端的教義や技術が、『魔法』と総称されていたのである。
修行によって魔法を身につけた者は『魔法遣い』と呼ばれたが、時には本人にも理由がわからないまま、異能を発現する者もいた。それは日本各地、とりわけ京都から関東地方においては、しばしば『天狗の子』と呼ばれた。
『天狗』とは読んで字の如く、『天の使者』を意味する。だが天狗という語の意味するところは多く、魔法に手を染めた高位の山伏を指したり、人里から離れて生きる者を指したり、日本に流れ着いた白人系外国人を指したり、狐・狗・狸あるいは鴉が妖怪化したものを指したり、実に様々な意味を持っていた。
そして今から六百年ほど昔、室町に幕府があった頃。相模の国(現在の神奈川県)に、天狗の子と呼ばれた少女がいた。彼女は妖怪でこそなかったが、天狗という言葉の持つ意味を、概ね満たしていた。
当時さびれた漁村だった横浜に、漂着した外国人が遺した娘。彼女はその複雑な出生から人里を追われ、山に独り隠れ棲んだ。ある日そこで出会った山伏から、修験道の魔法を習い、身につけた。
第二の親であり師でもあったその山伏は、彼女が十六の時、雷に打たれて命を落とした。だが師を失ったその日から、彼女の魔法は不思議と力を増した。
修験道の魔法の神髄は、大自然の力を己のものと化し、肉体と精神を自在と成す事にある。その究極は人の限界を超え、不老の肉体を得る事だ。
師から授かったその教えは、彼女の異能として結実した。不老の体を得た彼女は、さらに古今東西の魔法を学び力を磨き、己の魔力を華開かせ、いつしか世の人々の畏怖と崇拝を受ける事となった。
仏教思想で語られるところの、我ら人が棲む人間界。その上層に位置する魔の世界、『他化自在天』に足を踏み入れた者。
後に御岳の女天狗と呼ばれた大魔術師、『他化自在天 散華』の誕生である。
それは異端教会創設者レオン・アーデルハイムとトリスタニア・アルブスが、彼女と出逢う十一年前。 乱世にあった日本魔術界が、彼女の手で統一される七十六年前。 不老の肉体を得たいと願った魔術師、鴉天狗の異名を持つ女に討たれ、遺物となる四百三十年前。 死した散華の複製体が造られ、現代の魔術師たちと邂逅する五百七十年前。 魔術の歴史の黎明期、暁の時代の物語――
(※GM『店長』独自設定)