(1906年秋/フランス・ドイツ国境付近・深夜二時) ※GM店長独自設定
異端教会には『神罰』という、襲名制の二つ名がある。
異端教会は神の存在を、他の宗教のようには信仰していない。
むしろ所属者が信じているのは、人間の善性と意志。それ故に正当な教会的価値観から見れば、『異端』に他ならないのだ。
ならば彼らにとっての『神罰』とは何か?
それは常人は無論、普通の魔術師でも決して裁けない咎人を、断罪し得る唯一の力。
果てしない研鑽と祈りの果てに、人智を超えた力を得た魔術師に対する、一種の尊称だ。
(まぁもちろン、コレも一種の宗教的プロパガンダなんデスがね……
この捻れ具合もまた、異端的で素晴らしいデス)
自分に与えられたその二つ名を思い、男は笑みを浮かべる。自ら創造した飛空艇の機上で。フランスからドイツへの国境を越え、敵の本拠地を目指しながら。
男の名はフリオ・バンディーニ。『神罰の魔人』の名を持つ、異端教会最強の暗殺者。
その身には無数の遺物が埋め込まれている。異端教会がシュバルツイェーガーを打ち倒す為に造り上げた、一種の人間兵器だ。
魔術師を殺す為に存在する魔術師に、『神罰』などという名を与える事自体、歪んだユーモアと言えるだろう。だが彼は教会の方針に対し、疑問を持たないように育成されてきた。
また白側がそうせざるを得ないほど、事態は逼迫していた。
異端教会とシュバルツイェーガーは150年に亘る対立の果てに、現在両トライブの存亡をかけた、全面抗争を繰り広げている。世界情勢穏やかならぬこの時代、白がその戦いに敗れれば、黒が世界の裏の支配者となり得る。
決して敗れる訳にはいかない戦い――そしてそれも、大詰めを迎えていた。
やがて宵闇に沈む街道に、小さな馬車が見えてきた。あの馬車が、抗争の盛衰を決する遺物『ヘキセンリート』を運んでいる事を、フリオは既に掴んでいた。
彼は操縦席から身を躍らせ、600m下の地面に飛び降りる。それに気づいた馬車が停止し、中から二人の魔術師が飛び出してくる。
フリオ目がけて放たれる、熱線と黒霧。それを難なく弾きながら、彼は地面に降り立った。
「誰だテメェ……!」
隻腕の男魔術師が、フリオを睨んで呟く。傍らの和服姿の女が、煙管を手に身構える。
フリオはその二人を見据え、うやうやしく一礼した。
「アルバート・パイソン、そしてカラス・ミスマルですネ?
ワタシの名はフリオ・バンディーニ。アナタたちに死を贈る者デス」
その言葉に、二人の顔が強張った。フリオは身の回りに、大量の鋲を創造しながら告げる。
「咎人諸君、神罰の時間デス。己が罪を悔い改めなサイ!」
その声と共に、無数の鋲が二人に襲い掛かる。
アルバートが熱線でそれを撃ち落とし、鴉が遺物『ヘキセンリート』を起動する。
それが彼らの死闘の始まり。そして永い腐れ縁の始まりでもあった。