top of page

黄昏編第4話『未来の悲劇』プロローグ

◆   『終焉の魔女』の件が収束した後。   その日を境に現世では、隣神に抗う為の態勢が、着々と整いつつあった。   3トライブ共闘の確立。   それを盤石のものとする虐殺禁止原則の再締結。   一つの優れた個よりも、多様性ある群れが強いという事の証明。   各人の意志の力の強化と、黒の魔術師の第二覚醒。   さらには夜の書の再入手・無害化・割譲……   各魔術師の奮闘の結果として、これだけの成果がもたらされたのだ。   以前トリスタニア・ルーフスが告げた、   『今いる全ての魔術師の力を合わせても、隣神には勝てない』   という言葉も、覆りつつあるように思えたが――   「……魔術師たちよ、ようやく一つに団結したか?    だが遅いな、それは我々がとうに過ぎた段階だ」   隣世の深層。   そこで降魔たちの尖兵にして将たる、シェイプシフターが嗤う。   「個々の意志を否定し、一つの目的の為にのみ動く我々が。    何もせず手をこまねいていたと思うのか?」   彼の命令に従い、降魔たちが一斉に行動を開始した。   ◆   ――数時間後。白の東京支部。   そこにフランスの異端教会本部から、緊急通信が入った。   「本部が攻撃を受けているですって!?    敵は……数えきれないほどの降魔!?」   上層部からのその連絡に、衛示は表情を強張らせる。   「ああ、これまでの斥候とは明らかに違う。    物量に任せて、一気にこちらを滅ぼそうとする殲滅戦だ。    鍛え上げられた本部の精鋭たちも、百年以上生きている    古参の魔術師も、次々と殺されている!」   その報せを受けた時、衛示は理解した。   遂にこの時が来たのだと。現世と隣世の間で、本格的な戦端が開かれたのだと。   衛示は回線の向こうの上層部に、決意の声で言う。   「わかりました、至急救援に行きます!」   降魔が遺物を使えると言うのなら、本部の魔術師の遺物や、   保管されている遺物を奪われるわけにはいかない。   「手を貸して頂ける方は私に同行を! これよりフランス本部に向かいます!」   ◆   衛示がそう号令をかけていた頃、ニナもまた黒のドイツ本部から、同様の報告を受けていた。   救援要請を聞き終え、ニナは忌々しげに呟く。   「……なるほどな、最初から奴らはこれが目的だったのか。    東京にのみ降魔を送り込み、魔術師たちを陽動。    同時に現世の情報を収集し、各トライブ本部強襲の準備を整えていたわけだ」   戦闘開始から約1時間。この時点で本部存亡が掛かった激戦になる事は見えているという。   彼我の戦力差は、明らかに向こうの方が高いのだ。   「いかがいたしますか、ニナ様!?」と問う従者に、ニナは迷いなく答える。   「言うまでもない、本部の救援に向かうのだ!    同胞は可能な限り救い、敵は可能な限り殺せ!」   ◆   またその少し後、ラプラスもまた赤のアメリカ本部から、応援要請を受けていた。   「3トライブの本部同時攻撃か……救援行かないわけにはいかんよね。    降魔に遺物奪われちゃマズイし、重要な人材もデータも山ほどあるし。    しゃーない、行くわよアンタたち!    救援不可能と判断したら、諸々回収して日本に帰還! いい!?」   ラプラスの号令に、周囲の魔術師たちが鬨の声を上げる。   ◆   だが、降魔の他にもう一体。   人知れず、隣世から現世に帰還していた者がいた。   最強の知的個体『風伯』の複製体。   ある魔術師に創られた、人造の落とし児。   隣世で『七つの断章』を見つけた彼は、それを持って現世に帰ってきたのだ。   断章の力によるものだろう、送り込まれた時の身体の崩壊は完全に止まっており、その姿はかつての『風伯』そのものになっている。   「シェイプシフターには感謝しないとね。彼のおかげで、隣世でゆっくりできた」   自分に満ちる力を確かめるように、彼は手をぐっと握りしめた。   「……今度こそ、僕は」   魔術師達の殺害に向かう風伯。   彼が断章を手にした以上、元代理人達との激突は避けられない。   ◆   一方、『無色の間』では。   最古の魔女トリスタニア・ルーフスが、世界の状況を確認しながら、険しい顔をしていた。   「……予想より、少し早いか。あるいはギリギリ間に合ったと言えるのか……」   このような事態が迫っている事を予期していたからこそ、彼女は強引な手を繰り返し、   魔術師たちを鍛えていたのだ。   これは恐らく、3トライブの存亡を懸けた戦いとなるだろう。   同時にそれは全ての魔術師と、現世そのものの危機である事も――   「……ならば私も、動くべき時だな」   彼女は固有魔法『遍在の声』を起動し、東京中の魔術師たちに通信する。   「聞こえるかい、魔術師諸君。いよいよ『未来の悲劇』が始まった。    今この世界の魔術師たちは、未曽有の攻撃に曝されている。    なんとしても自身と同胞と遺物を守り抜かなければならない」   そこまでは3トライブも調停者も共通の想いだ。   だがその先が違っていた。   「しかし諸君、守り戦だけでは活路は開けない。    私はこれよりもふと共に、隣世の深層に向かう。    世界を救う為には何としても、隣神の居所を見つけなければならないのだ。    隣世にはシェイプシフターを初め、降魔が大量にいる。恐らく死出の旅になるだろう。    それでも良いという酔狂な魔術師は、私に同行してくれ」   ――そうして全ての魔術師が、それぞれの戦いを開始する。     ある者は東京で、ある者は異国で、ある者は隣世で。     魔術師たちの死闘が、幕を開けようとしていた――   ①本部の救援に行く   ②風伯と戦う   ③隣世に攻め込む   ④独自の行動  


bottom of page